
スノーマンが動く外国製のおもちゃを修理していた80代のドクターは「なんとかクリスマスまでに戻してあげたい」と手を休めない。ピクリともしなかったスノーマンはやがて動くようにはなったものの、内蔵スピーカーを交換したのに「出るはずの音が出ない」と腕組みして悩んでいる。
別のドクターはアンパンマンの「クレーンゲーム」を診ていた。「割れてしまったプラスチック製の小さい歯車を修理して動くようになったが、まだ微調整が必要だ」と真剣な表情だ。
預けていたおもちゃを受け取りに来た小学生の娘とその母親は、ポケモンのキャラクター、インテレオンの人形の腕が折れ、治療をお願いしていたという。
「娘が自分のお金で買った人形なのに私の不注意で壊してしまって。1、2年は壊れたままだったんですが、この病院の存在を知って来たんです」。ほっとした様子の母。久々に戻ってきた人形を抱きしめた娘は「ママが壊しちゃったの。“このー!”って怒ったんだけど、直ってよかった」と笑った。
そんな2人の後ろ姿を見ながら伊藤さんは「修理したおもちゃをお返しすると、みんな笑顔になる。この瞬間がいいんですよねえ」。母娘以上にうれしそうだった。
初めてのお小遣いで手にした思い出の人形。元通りの姿で戻ってきた瞬間の彼女の喜びは買ったとき以上ではなかったか。
■傷んだら、直す ごく当たり前に
20年ほど前に海外で買ったアンティークの家具を新品同様に直してもらった山室真知子さん(74)も、思い出の品が返ってきたときの喜びは「格別だった」と振り返る。
「主人の仕事の関係で(米テキサス州の)ヒューストンにいたとき買った英国製のアンティークの8人掛けテーブルと椅子8脚。日本に持ち帰って使い続けていたんですが、椅子が軋(きし)むようになり、生地も汚れてしまって。去年の9月に自宅をリフォームしたのを機に椅子を6脚、修理に出しました」
家族の団欒(だんらん)に、また数多くの来客を迎える際に長らくその中心にあったテーブルセット。時を経た今は、巣立った子供たちが連れてくる孫も利用する。