山室さんが修理を依頼した英国製の椅子。部屋に合わせて生地を張り替えた

「新品同様で戻ってきたときはうれしくて」と声を弾ませる山室さん。生地はリフォーム後の部屋の雰囲気に合うものを選び、張り替えてもらった。一家はみな背が高いために日本の家具では使いづらく、ほどよいサイズのこの椅子とテーブルはお気に入りだった。

「きれいに直って気持ちいい。リフォームした部屋の雰囲気にもピッタリで、より大切に使いたいと思いました」

 出来栄えに大いに満足した山室さんは別の家具の修理もお願いした。さらなる「修活」に励んでいる。

「以前ドイツにいたとき、修理して長く使う習慣があるドイツ人の姿を見てすごくいいことだと思っていました。気に入って長年使ってきたものが傷んだら、直して使うのは当たり前。ほかの家具も少しずつでいいから修理して使い続けたいですね。ただしお金がかかるので、お財布と相談して(笑)」

■湯飲みのヒビは是「日々」なり

 買った金額より高い修理代を出してまで、壊れた茶碗を愛用しているのは横浜市に住む杉田昌隆さん(59)だ。杉田さんは1995年の阪神・淡路大震災を震源地近くで経験した。

「隣の家に住む新婚さんは家が全壊して家具も全部壊れてしまったのですが、わが家はラッキーなことに床が盛り上がり、家具が倒れてきた程度で済みました。壊れたものといえば高校時代に修学旅行で行った九州で買った湯飲みぐらい。今思うと持っていける小遣いも少ないなか、なんで湯飲みなんて買ったのかって思いますが、大事に使っていました」

 震災直後は大変なこと続きで、壊れた湯飲みは捨てた。杉田さん夫婦は「きっとこの湯飲みが私たちの身代わりになってくれたんだ」と話していたという。2001年に仕事の関係で横浜に引っ越した後、通勤途中で身代わりになった茶碗によく似た湯飲みを見つけ、購入した。4千円弱だった。ずっと愛用していたが、一昨年12月、その湯飲みにヒビを見つけた。

「落としたりしたわけではなく、普通の暮らしの中でできた感じでした。きっとこのヒビも、僕の毎日の生活を受け止めてくれた身代わりにできたんだろうなって。もしかしたらヒビって、漢字では“日々”って書くのかもしれないなんて思ったりして(笑)。期間は半年以上、費用も買った金額以上にかかると言われましたが、使い続けたかったので金継ぎ職人に修理を頼んだんです」

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