「中原中也はいったいどこにいるのだ?」──著者は中也の詩集『山羊の歌』の校正刷本のことから語り始める。中也は推敲に推敲を重ねた詩人。彼の完成作品だけを見るのではなく、詩ができるまでの過程を追うことで中也の再発見を試みたのが本書だ。

 第五章では詩「雪が降つてゐる……」における「雪」の印象が、推敲を経て大きく変化したことを示す。自らも詩人である著者による詩の味読と資料の丹念な読みとりが冴え、長男文也の死が中也にとっていかに重い衝撃であったかが痛切に感じられた。

 短歌に熱中し新聞投稿を重ねた少年時代や、あの有名な擬態語「ゆあーん ゆよーん」が中国語に由来するという新説の紹介も興味深い。なによりも、これほど詩語を深く掘り下げた労作が新書で読めるのはうれしい。(石原さくら)

週刊朝日  2017年10月27日号