山尾悠子(やまお・ゆうこ)/1955年、岡山市生まれ。同志社大学文学部国文科卒。著書に『夢の棲む街』『角砂糖の日』『山尾悠子作品集成』『ラピスラズリ』『山の人魚と虚ろの王』ほか。『飛ぶ孔雀』で泉鏡花文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、日本SF大賞を受賞(撮影/小山幸佑)
山尾悠子(やまお・ゆうこ)/1955年、岡山市生まれ。同志社大学文学部国文科卒。著書に『夢の棲む街』『角砂糖の日』『山尾悠子作品集成』『ラピスラズリ』『山の人魚と虚ろの王』ほか。『飛ぶ孔雀』で泉鏡花文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、日本SF大賞を受賞(撮影/小山幸佑)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 迷宮的作家・山尾悠子の足跡を辿る500頁。『迷宮遊覧飛行』は、20代の「若書き」から現在に至るまでをおさめた、初のエッセイ集だ。泉鏡花、澁澤龍彦、ボルヘス、デルヴォーなど、偏愛する作家や画家をめぐる文章、自作解説、回想、掌篇小説など全80余編が1冊に。書き下ろしの「読書遍歴」も収録する。山尾さんに同書にかける思いを聞いた。

*  *  *

 20歳での鮮烈なデビュー以来、日本の幻想文学の地平を広げてきた山尾悠子さん(68)。30代から40代の「休筆期間」を経て発表した『飛ぶ孔雀』では泉鏡花文学賞、日本SF大賞、芸術選奨文部科学大臣賞を次々に受賞した。

『迷宮遊覧飛行』は意外にも初めてのエッセイ集だ。偏愛する作家、泉鏡花や澁澤龍彦、ボルヘス、画家のデルヴォーらをめぐる文章から自身の作品について。また大学時代を過ごした京都の思い出など、幅広いテーマが80余編、500ページにまとめられた。

「肩ひじはらずに、気ままに、まさに『遊覧』するような内容なので、最初に思いついたものをそのままタイトルにしました。20代の若書きから今に至るまで、書いた時期も発表した媒体もさまざまです。目次は担当さんが決めてくれました。復帰後に書いたものをI章にまとめて、小説風に書いたものをII章に、若い頃の文章を最後のIII章に置いています」

「飛行」しているかのような読後感もまた、山尾さんの文章ならでは。書店のフェアに寄せた文章、ネット書店の購入特典として書かれた挨拶文や自作解説は、お茶を飲みながら山尾さんのおしゃべりを聞いているようだ。

「本を出してから驚かれたのは、はじめに載せた教育実習についてのエッセイです。(幻想文学作家としての)神秘性がなくなったという声もあれば、血の通った人間だとわかるのであったほうがよい、という編集さんもいましたね(笑)」

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