それからすれば、外国人を恐れ、毛嫌いする必要はなく、むしろ外国人に日本に定住してもらい、高齢化する社会を支え、日本の未来をともに担う人材としても活躍してもらう、という発想があってもおかしくないだろう。これが『限界国家』を貫くメインテーマである。
その一方で、目を外に転ずれば移民・難民に対する排外主義的な動きは、ヨーロッパ、アメリカなどで高まりを見せている。こうした状況を見れば日本が外国人を受け入れても大丈夫か、安心安全な社会が壊れるのではないかと心配する人びとがいるのも当然だ。
たとえば日本での外国人犯罪は、警察庁の統計によれば、この十年間でほぼ半減している。
筆者はいま、日本で最も外国人が多い地域の一つ、東京・新宿区の「多文化共生まちづくり会議」の会長を務めているが、新宿区は人口34万人のうち12%を外国人が占め、120カ国以上の人びとが暮らしている。その会議は条例で定められたもので人員構成は日本人・外国人がほぼ半々で、難民の代表もメンバーになっている。
混沌としたイメージをもたれる新宿区だが、小さなトラブルはあっても外国人と日本人との共生はうまくいっている。治安を心配するのは日本人だけではなく、定住している外国人も平和で安心安全な暮らしを求めているのである。彼ら自身も外国人の中途半端な受け入れを望んでおらず、しっかりした受け入れ態制を作ってほしいと言っている。
政府は移民政策をとらないといっているが、じつは人手不足のもとでたいへんな状況になっている。2016年末の在住外国人は238万人と過去最高を記録し、一年間だけで15万人の外国人定住者が増加した。しかも、留学生という名目の「デカセギ留学生」や、さまざまな問題が指摘される「技能実習生」の急増で、失踪者も増えている。
現在の制度下では、移民受け入れに反対する人が恐れる「移民問題」が発生することになる。そうしないためには、必要な人材を選別して受け入れ、彼らの日本語能力を高めて社会に統合していく「移民政策」を、しっかりとることが問題を回避する最良の方策である。
地域社会では、外国人に日本語を教えるボランティアの動きが活発化している。そんなボランティア教師が世界のどこを旅行しても、かつての教え子が現地で出迎え、歓迎してくれる話をたくさん聞く。
人口減少を逆手にとって、世界とのつながりを広げるチャンスにすべきだ。この国の閉塞感を打破し、地域も個人も新たな時代へと導く構想を本書は提示している。