それはともかく、僕は確かに『小耳にはさもう』を愛読していたし、ひいては、掲載誌の「週刊朝日」をも愛読していたのだろう。
ただの「読者」ではなく「愛読者」のいる連載は強い。そういう連載を多数持っている雑誌もまた「愛読者」を得ることになる。
扇谷正造の唱えた「連載やミニコーナーの充実」とは、雑誌に「愛読者」を増やすべし、ということだったのかもしれない。
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長期連載のレイアウトは、そう頻繁には変わらない。掲載ページも、よほどの誌面リニューアルがなければ大きくは移動しない。それが「いつものやつ」の安定感や頼もしさの所以でもある。
手にしたばかりの最新号のページをぱらぱらとめくると、要所要所でおなじみのレイアウトやタイトルロゴやイラストが目に入る。
週替わりでトップを飾るニュース記事が硬軟・明暗・悲喜いずれに大きく振れようとも、「いつものやつ」は、すぐに浮足立ってしまう読者が自分の現在地を見失わないよう、いつものように、ここにある。
その最たるものが、毎号の巻末に置かれた黒枠ページ──『ブラック・アングル』だったのだ。
紙媒体ならではの巻末という奥座敷で、ブラック氏は読者を待ち構え、毒と笑いの食後酒をふるまってくれた。せっかちな読者がいきなりページを逆に開いても、もちろんウェルカム。僕も何度もやった(あなたもでしょ?)。食前酒には少々キツめでも、やっぱり美味かったなあ。
そんな『ブラック・アングル』の連載終了後は、一冊を読み終えても、なにか忘れものをしたような気分で落ち着かなかった人は多いだろう。
その「ロス」が、休刊へのカウントダウンとともに、思いがけないかたちで埋まった。4月14日号から傑作選の連載が始まったのだ。
寂しさ交じりではあっても、ここは素直に再会を喜びたい。おかげで、この小文は、ブラック氏の黒メガネににらまれながらの連載ということになった。剣呑な……いや、心強いかぎりである。
次回は開高健や司馬遼太郎にご登場願う。そして最終回では、再び「週刊朝日」と読者の関係をたどろうと思っている。
全3回。短いお付き合いですが、どうか、「ご愛読」ください。
※週刊朝日 2023年5月5-12日合併号