「世界で一番幸せな国」に移住したらどうなるの? 今回ご紹介する『幸せってなんだっけ?~世界一幸福な国でのヒュッゲな1年』は、英語版『マリ・クレール』の元編集者でジャーナリストのイギリス人、ヘレン・ラッセルさんが夫と共に北欧デンマークへ移住した体験を綴ったエッセイです。
世界で最も刺激的な街のひとつとされるイギリスのロンドンでファッション誌『マリ・クレール』の編集者をしていた著者は、夫がデンマークのレゴ社に勤務するのを機に、夫について移住することを決めます。当時彼女は33歳、仕事もフラット(マンション)もあり、リタイヤ後の計画も立てていました。突然のデンマーク行きに初めはとまどい、快く賛成できないヘレンさんでしたが、お試しでデンマーク旅行をしたことをきっかけに考えが変わっていきます。「デンマーク人は私たちとは違って見えた。それは彼らがリラックスして見えたということ。そしてゆったりと歩く。慌てることなく周りを眺め、時々立ち止まる。深呼吸するためだけに。」(本書より)
以降、ロンドンでの仕事漬けの生活に疑問を抱き始め、いよいよ移住を決意するのです。正直、日本人が突然北欧へ移り住むよりハードルは低いと思います。それでも生まれ育った自分の国を出て他国へ移り住む大変さは同じ。生活習慣の違いはもちろん、日々の決まりごとといった些細なことから法に関することまで問題は山積みです。ただし、デンマークの食べ物を皮肉るくだりなどは、イギリスの食事情を知っている人なら苦笑いしてしまうかもしれません。
そんなヘレンさんが最初に受けたカルチャーショックが、本書のタイトルにもなっている「ヒュッゲ」でした。ヘレンさんが尋ねた異文化適応コーチいわく、デンマークでは冬になるとプライベートな家族の時間を過ごすのが一般的で、この季節は皆、家の中で「ヒュッゲ」をするそう。「デンマーク人なら誰でも知っているのだけれど、一言で言えば『心地よい時間を過ごす』という感じかしら」(本書より)と言っています。そんな「ヒュッゲ」は、風邪のときにも活躍します。ヘレンさんと仲良くなった現地の友人は、風邪の対処法について「たくさんお茶を飲んで『ヒュッゲ』をして、そしてちょっとシュナップスを飲むわね」(本書より)と話すほど。(ちなみにシュナップスとは、お酒です)。
仕事人間だったヘレンさんが「ヒュッゲ」と出会い、上手に余暇を楽しむようになっていく姿は、現状に甘んじず思い切って一歩踏み出す勇気が幸せにつながるんだと教えてくれる気がします。