深さ7メートルの穴に落ちてしまった兄と弟。極限下で見えてくるものとは……。訳者が「現代版『星の王子さま』」と評しているように、本書は読んだ者の心を揺さぶるすぐれた寓話である。

 飢えた兄弟の食べ物への渇望が実にリアルだ。「目玉をキャラメルみたいに吸って、しょっぱい水分を飲みほしてやりたい」とか、ウジ虫の味が「チキンステーキみたいだ」とか。死の淵を覗いている気分になるが、読後にはなぜか爽快感がある。幻覚の末に弟がつぶやく「今日は、ボクがボクになる前夜なのかもしれない」という言葉は、絶望を乗り越えるひとひらの希望なのだ。

 兄弟の生きざまには、フィクションながら強く胸に迫るものがある。混迷する現代に生きる私たちも、実は穴の中と同じ極限にいるのかもしれない。

週刊朝日 2017年3月31日号