『COME AWAY WITH ME』Norah Jones(アナログLP)
『COME AWAY WITH ME』Norah Jones(アナログLP)
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 最近、ある事情があって、事務所を片付けている。それも、徹底的にだ。
 わたしの事務所は、散らかっている。その主な原因といえば、ものが多いのだ。特に、本とレコード、CD、DVDの類いが多い。それと書類やチラシだ。
 CDとDVDはパソコンに取り込んで、売った。まだ残っているがさほど多くはない。処分は簡単である。

 問題は本である。ある時期から気になる本はできるだけ買うことにした。ビジネス・チャンスと自己研鑽が目的だ。それから音楽や映画やアート、文学に関する書籍も買い集めた。ビル・エヴァンスが、何年何月何日、どこで生まれたのか? レコード・デビューは? いつ、どんなメンバーで録音したのか? マイルス・デイヴィスとの初演はいつ、どこで、どんな曲だったのか? そんなことが気になったとき、すぐに調べられないとイライラするのだ。

 もちろん音楽だけではない。古今亭志ん朝は、志ん生がいくつの時に生まれて、兄の金原亭馬生といくつ違うのか? いくつで誰に入門して、いくつの時に二つ目になって、真打ちには何年目でなったのか? 出囃子のタイトルはなんだったっけ? などと、考えはじめたとき、すぐにわからないと、イラッとするのだ。

 だから、さまざまなジャンルの情報を身の回りに集めていた。

 加えて、古本屋で絶版になっている本を見つけると、次にこの本に巡り会うのがいつになるかわからないのでとりあえず買っておくことにしていた。

 そんなこんなで買い集めて来たのだが、わかったことは「多すぎると読み切れない」ということだ。もちろん本には、楽しみのために手に入れるものと情報収集のために手に入れるものがある。だから情報収集のための本などは、全部読む必要などなく、その本がどんなことを言おうとしているのかポイントがなんなのかがわかれば、その本を手に入れた意味があるわけだ。

 それともう一つ、世の中が変わったことがある。インターネットとアマゾンである。アーティストの誕生日やディスコ・グラフィーなどは、インターネットで簡単に調べられる。インターネットが現れるまではとても重宝していた、ジャズ人名辞典などは、ほぼ必要なくなった。

 それから、アマゾンでは古本も販売しているので、古本屋で見つけたときに買う必要がなくなった。必要になったときにアマゾンで探せば、だいたい見つかることが多い。東京の中央区のマンションで、書庫として使っていた一部屋の家賃を考えると、生き方を変えた方がよいように思うようになった。
 
 東京での生活では、所有する喜びを捨てよう。いつか読むかもしれない本は、処分しよう。

 そう決めたのだ。

 しかし、子供の頃からお昼代を浮かしてまで本を買う習慣が身についていて、簡単に捨てたり、売ったりすることができない。しかたがないので、売りたくない本は自炊することにした。自炊とは本を断裁し、ソーターが装着してあるスキャナーで本一冊分のデータを数分間で読み取ってしまい、PDFにして残すのである。つまり紙の本ではなく、デジタル・データとして残し、タブレットで読むというものだ。

 本として所有する喜びはなくなるが必要なときに読むことができる。もっともよいことは、昔の文庫は、小さな文字のものが多い。それらを大きな文字にして読めたりすることだ。小さかった挿絵も拡大できる。

 そんなわけで、わたしはせっせとわたしの蔵書を自炊しているのである。

 この作業はわりと単純な作業だ。だから、BGMをかけながら作業をした。そのときに聴いたのがノラ・ジョーンズだ。

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