●韓国の憲政史上初となる大統領の罷免が及ぼす影響
3月10日、韓国の憲法裁判所は8人の裁判官全員一致で、「朴槿恵(パク・クネ)大統領に重大な憲法・法律違反があった」として罷免を宣告した。韓国の憲政史上大統領の罷免は初めてのことである。朴大統領は直ちに失職し、今後60日以内、5月9日までに大統領選挙が行われる。
韓国の憲法裁は、証拠と法理を積み上げるのではなく、政治的判断で結論を出すと韓国の国内でも言われている。元在韓大使として、憲法裁の結論にコメントするのは差し控えたいが、今の激昂する国民感情の下で、朴大統領の弾劾を棄却するのは非常に勇気のいることであっただろうし、この結論は想定されていたことでもある。
韓国の大統領は伝統的に、任期末あるいは任期後に不幸な結末を招いているとも言われているが、弾劾というのは憲政史上初である。とはいえ、これまでの大統領と比べ、朴大統領の行動が重大な憲法・法律違反であったかは何とも言えない。ただ、朴大統領の行動がベールに包まれ、国民に理解しがたいものであったことは事実であろうし、朴大統領の捜査に対する非協力姿勢も心証を悪くしたと言えるであろう。
それにしても、朴大統領の弾劾は韓国国内の政治的対立を深め、北朝鮮情勢が混沌としている中で、韓国の安全保障にとって深刻な事態をもたらしていることは否定しがたい。しかも、韓国国民が北朝鮮の脅威よりも朴弾劾を優先したことは次の政権選択に暗い影を落としている。また、せっかく朴政権の下で立ち直りかけていた日韓関係を再び悪化させかねない危険をはらんでいる。
韓国の主要紙も、韓国の政治家は日韓の対立を煽ることばかりで、対立関係を調整し韓国の進路を正しい方向に持っていくことをしないと嘆いている。
韓国の政治的混乱が、どのような影響を及ぼすのか考えてみたい。
●北朝鮮のことは眼中にない?次期大統領候補と韓国民
朴大統領の弾劾によって、次の大統領選挙が5月9日ごろ行われる見通しである。現在名前の挙がる候補者の支持率を見ると、世論調査によって違いがあるが、野党系の候補の合計支持率は7割を超えるものが多い。聯合通信も野党内の予備選挙が事実上の決戦になると予測しており、トップを走る野党「共に民主党」前代表の文在寅(ムン・ジェイン)候補の支持率は3分の1を超え、突出している。