本も雑誌もなるべく書店で購入する私だが、この本はネット通販で入手した。こだま著『夫のちんぽが入らない』。本に巻かれた帯には、〈衝撃の実話。絶望の果ての、揺るぎない希望〉とあった。
大学入学のために北海道の〈くそ田舎〉から本州に移る私は、ぼろぼろのアパートに転居した。そこで同じアパートに暮らす大学の先輩に出会い、つきあいはじめる。そして、ほどなく二人は結ばれ……るはずが、まったく挿入できない。高校時代に初体験をすませていた私だが、相手の先端部が入るだけで局部が裂けて出血する始末。必死で解決策を探る私は、卒業して高校教師になった彼とベビーオイルを使って試みる。
〈たった半分を入れるのに四年の月日を要した。プレートが一年に数センチメートルずつ沈み込むような、地球レベルの交わり〉
赤裸々で猥雑なタイトルの作品ながら、その内容は歯切れよく、無駄なく、ユーモアもまじえて書かれている。それは、自分の過去も現状も客観視できている証しであり、上質の文章がつらなる源となっている。彼と同じく教師となった私が経験する学級崩壊の実態や母との葛藤、彼との結婚生活、出会い系サイトを通じて本名も知らない男たちとセックスをする展開も、自殺を考えるようになる過程も、作者の筆力に導かれて読んでしまう。
主婦となった作者は20年をふり返り、眼前の人の決断を軽々しく否定しないと書く。
〈人に見せていない部分の、育ちや背景全部ひっくるめて、その人の現在があるのだから〉
文字どおり身を切って得た彼女のメッセージは、すんなりと私の中に入ってきた。
※週刊朝日 2017年3月17日号