一昨年ぐらいからテレビに登場するようになった気鋭の国際政治学者、三浦瑠麗(るり)。アメリカ大統領選挙が進むにつれ、理路整然と、時に微笑を浮かべながら自説を語る姿を何度も見かけた。そんな三浦の『「トランプ時代」の新世界秩序』は、ドナルド・トランプが大統領になった要因と世界への影響についてテンポよくまとめている。
世紀の番狂わせとまでいわれた選挙結果が出た後、日本でもあれこれと分析されてきた。ヒラリー・クリントンの失態やアメリカの分断された社会状況の深刻さ、マスメディアへの不信などが列挙されたが、それらに加えて三浦は、三つの変化の重要性を説く。
1965年から始まる「五十年間の変化」、95年からの「二十年間の変化」、オバマ政権期の「八年間の変化」──これらの時間軸に沿って浸透してきたアメリカの変容とその反動を理解した上でなければ、トランプ当選の本質を見誤ると三浦は警告する。
〈「トランプ現象」はアメリカ政治の閉塞感とアメリカ国民の深層心理を踏まえて立ち上げられたものであり、これまでのアメリカ政治の構造を組み替える可能性を秘めています〉
まさにこの時期でなければ誕生しなかったアメリカ史上最もアウトサイダーな大統領、トランプ。彼がすでに手をつけはじめた「ゲームのルール」の変更は、世界に衝撃を与え、混乱させ、あらためてアメリカの影響力を見せつけている。
三浦によれば、私たちは〈「冷戦後」からの脱却〉の時代を迎えたらしい。混沌はこれから本格化すると覚悟し、本書も参考にして、変化の本質と向きあいたい。
※週刊朝日 2017年3月3日号