『持続可能なメディア』
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下山:これが週刊文春に連載されているのを見て、実は文藝春秋自体も、いわゆる不倫密会みたいなものはやめようとしてるのかなとも思ったんですよね。不倫密会の記事を読みたくて、たとえ一時有料課金の会員になっても、すぐ出ていってしまう。しかもイメージは悪いので他の硬派の記事を読んでいる読者も離れる。誰にとっても得はない。

塩田:週刊文春編集長の竹田聖さんと話をしていてはっとしたのは、女優の不倫疑惑記事を出した時に、編集部員が、もう第2弾はやめましょう、と言ってきたということでした。ストップをかける人たちが出てきているっていうところに、僕は希望を見いだした。

『踊りつかれて』を書くとき、SNSの誹謗中傷が理解できなかったんです。何でこんなことを平気で書けるんだろうと。過剰さの裏には常に不安があるんだっていうところをちゃんと見抜けないと駄目で、我々、書き手の側はその過剰さに迎合するんじゃなくて、しっかりと「実」を見つめて表現していくしかない。

 私は、いつも小説を書くときは、ゼロからスタートすることにしています。何年やっても、何回小説を書いても常にリセットボタンが押される感覚なんですよね。

下山:リセットボタンですか。これは版元の側にもわかってほしいですよね。版元は前売れた、そのようなもの書いてくれって注文してくる(笑)。

塩田:いやー、まさしくそれですね。

下山:編集者時代に、私はよくこう言っていたんです。編集者はサーフィンの波乗りと同じ。今乗っている波はやがて凪ぐ。だから次の波、次の波と乗り移っていかなくてはならない。書き手も同じです。

 実は評価を受けたり、話題になる作品というのは、過去作のデータからは生まれない、それが教訓でした。

(構成/編集部・藤井達哉)

AERA 2025年9月1日号より抜粋

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