アグネスさんの現在の生活に欠かせない存在になっているインドカレー( photo 本人提供)
アグネスさんの現在の生活に欠かせない存在になっているインドカレー( photo 本人提供)

ふと立ち寄ったインドカレー屋で

 そして私は、あえてがんになったことをオープンにすることに決めました。がんを“隠すもの”にしたくなかったのです。

 悪いことをしたわけでもないのに、どうして後ろめたさを感じなければいけないのか――そんな気持ちが強くありました。 ありがたいことに、公表したことで多くの方から励ましの声をいただきました。

「私も乳がんになったけれど、あなたの笑顔に勇気づけられました」
「この機会に検診に行こうと思いました」
 そんな言葉の数々に、私自身が救われたのです。

 とはいえ、気持ちが落ち込むときがまったくなかったわけではありません。

 そんな私を見かねたのか、入院先の病院の先生が「一度、外に出て好きなものを食べてきてください」と仮退院の日を設けてくれました。どこに行こうかと迷いながら、近所を歩き回った末、ふと立ち寄ったのが、以前から何度か訪れたことのあるインドカレー屋さん。

アグネスさんの新著「70歳、ひなげしはなぜ枯れない 心も体もしなやかでいるための45のヒント
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10月1日が記念日に

 入店すると、マスターが笑顔でこう言ってくれました。「おー、アグネスさん、元気そうですね!」
 彼は私が乳がんで入院していたことを知りませんでした。

 でも、その一言が本当に嬉しくて。

「ああ、私は周りからは元気に見えるんだ」「気にしているのは自分だけかもしれない」と思った瞬間、心がスーッと軽くなった気がしました。

 それ以来、わが家では毎年10月1日を「インドカレーの日」と名づけて、家族でカレーを囲むようになりました。

 今でもこの日は生きていることのありがたさを嚙みしめる、大切な日なのです。

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