女嫌いの女好き、冷たいニヒリスト、繊細で懐疑的、研ぎ澄まされた文章、娼婦と性の文学……。作家吉行淳之介に対する読者のイメージは様々だ。本書は、吉行の「人と作品」を丹念にひもといたもので、読者の一方的な先入観や勘違いの印象を一変させてくれる。
 吉行は、どのような小説をどのように書いたのか。『闇のなかの祝祭』『焔の中』『砂の上の植物群』『暗室』などの作品の背景や執筆時の心境をたどり、批評家の論評もこまめに拾いあげている。終生、生活を共にした宮城まり子との関係にも触れていて興味深い。
 読み進めていくと、吉行の人物像、文学世界が鮮明となってくる。再三論じられる吉行の極度な文章へのこだわり方は、これから小説を書く人のための最適なテキストにもなりそうだ。 

週刊朝日 2017年2月17日号