
1998年5月26日、イギリスを訪問した天皇陛下と美智子さま(現在の上皇陛下ご夫妻)。エリザベス女王(右)、エディンバラ公(左)とともにカメラに収まった(photo アフロ)
戦後80年の夏がやってきた。日本の皇室と英王室の関係をたどると、時の流れを経て変化した両国の関係が浮かび上がる。
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1998年、天皇陛下と美智子さまご夫妻(現在の上皇さまご夫妻)がイギリス王室から国賓として招かれ訪英した。お二人は、ロンドンのバッキンガム宮殿まで続く「ザ・マル」という大通りを馬車で進むという。私が取材に向かうと、沿道にはすでに多くの人たちが立ち並んでいた。人々の中には、故郷から来る上皇ご夫妻を一目見ようとする在留日本人の姿も目立った。
馬のひづめの音が次第に近づき、やがて豪華な屋根付きの馬車が目の前を通った。美智子さまが腰を浮かすようにして窓に顔を寄せ、私たちに手を振られているのが目に入った。
日本に対して謝罪と賠償金を要求
そのときだった。それまで穏やかに談笑していた10人ほどのイギリス人の高齢男性たちがくるりと馬車に背中を向けたかと思うと、一斉に真っ赤な手袋をつけたこぶしを突き上げたのだ。みな、軍服に勲章をつけベレー帽をかぶっている。その人たちが一言も発することなく、ただ力いっぱい空に向かってこぶしを上げたのだ。
衝撃的なパフォーマンスを行った彼らは、第2次世界大戦中、旧日本軍の捕虜になりミャンマー(当時のビルマ)などで過酷な労働に従事させられた面々だった。劣悪な環境のもとマラリアや事故に倒れる人も少なくない凄惨な日々。生き残った彼らは「forgive, but never forget(許すが、決して忘れない)」を合言葉に、日本に対して謝罪と賠償金を要求していた。

振り返ると1971年、故エリザベス女王は昭和天皇が訪英された折に晩餐会で、「過去に日英の関係がいつも平和であったわけではありません」と率直に語った。そして「しかし、その経験こそが二度と同じことが起こってはならないと誓わせるものなのです」と続けた。この歴史に残る名スピーチが示すように、終戦後は日英共に互いに戦争の傷をいやすことに追われてきた。