2024年6月25日、晩餐会の前に談笑する(右から)チャールズ国王、天皇陛下、皇后陛下、カミラ王妃
2024年6月25日、晩餐会の前に談笑する(右から)チャールズ国王、天皇陛下、皇后陛下、カミラ王妃

多くのハードルを乗り越え実現した訪英

 それらの記憶があったので、昨年6月の天皇陛下雅子さまによるイギリス訪問は驚くことばかりだった。チャールズ国王と天皇陛下は、馬車でバッキンガム宮殿に向かったが、その馬車は屋根のないオープン型だった。沿道から卵でも飛んでくれば十分に届いただろう。

 また、この訪英がいくつものハードルを乗り越えて実現したことも感慨深かった。天皇陛下が19年5月に即位されたことを祝い、招待してくれたのはエリザベス女王だったが、コロナ禍で訪問が叶わないまま、残念ながら22年に逝去された。その後、チャールズ国王とキャサリン妃が相次いでがんと診断されて療養生活が始まっていた。

2024年6月25日、バッキンガム宮殿に向けて、馬車で出発する天皇陛下とチャールズ国王
2024年6月25日、バッキンガム宮殿に向けて、馬車で出発する天皇陛下とチャールズ国王

天皇陛下に会いたがったチャールズ国王

 それでもチャールズ国王は天皇陛下に会いたがった。エリザベス女王の逝去、コロナ禍、そして自身のがん。それらを乗り越え、タイミングを探り続けた。そして実現した訪英は、国内で総選挙が迫る時期だったことから、より一層、国王の強い想いを感じることとなった。

 実際、天皇陛下への親しみはほほえましいほどだった。晩餐会でのチャールズ国王のスピーチは、「(イギリスへ)オカエリナサイ」という日本語で始まった。天皇陛下も雅子さまもイギリス留学の経験があることを踏まえ、まるで兄のような温かさにあふれた言葉掛け。さらに続けて「ポケモン」などの言葉が飛び出し、日本のカルチャーをほめたたえると、そこにいた誰もが笑顔になった。

 天皇陛下もまた招待に厚く感謝しながらも、ユーモアにあふれたスピーチを行った。雅子さまと二人で、「滞在中にオックスフォード大学を訪ねることを楽しみにしている」と話したとき、「チャールズ国王が卒業されたケンブリッジ大学ではないのは残念ですが」とアドリブで付け足した。それは、かつて国王が皇太子時代に来日した際に国会で行ったスピーチで、「自分の母校ケンブリッジ大学ではなくて、オックスフォードに留学されたのが残念です」と述べたことへのお返しだった。国王はすぐにそれに気づいて大きく笑い、40年ほども前の言葉を天皇陛下が覚えていたことを喜んだのだった。国王と天皇陛下が時間を超えて強く結ばれた友情を確かめ合った瞬間だった。

日英両国が抱える課題が変化

 お別れのときは、国王はいかにも名残惜しそうで、雅子さまの頬にキスをして別れを惜しんだ。目を赤くした国王は、傍らのカミラ王妃に背中を軽くたたかれて慰めてもらったほどだった。

 もう戦争の話題はメインのテーマにはならなかった。戦争への反省を踏まえながらも見据える先はともに未来。いかにして若い世代に平和のバトンをつないでいくか、これこそが今回の訪英のメインテーマだった。

 戦後80年の節目に、日英両国が抱える課題が変化してきたことを感じている。それは、日本の皇室とイギリス王室が、世代交代を経ても互いへの信頼を高め、温かな友情で結ばれてきたからこそだろう。今後ますますそのソフトパワーが重要になることは間違いないと思う。   

(ジャーナリスト・多賀幹子)

こちらの記事もおすすめ カルーセル麻紀さん(82)が語る戦後 テレビの出始めは「見せ物」だった 戦後80年「いろんな生き方が認められるいい時代になった」 #戦争の記憶
[AERA最新号はこちら]