新作オペラ《ナターシャ》の台本を書いた多和田葉子(右)と、作曲した細川俊夫(撮影:堀田力丸)
新作オペラ《ナターシャ》の台本を書いた多和田葉子(右)と、作曲した細川俊夫(撮影:堀田力丸)

「スコア(楽譜)を見ていると多和田さんと細川さんの関係が非常にうまく溶け合っているのが感じられ、私の中にもワクワクと湧いてくるものがあってとても刺激的な体験になっています」(大野)

変わらぬ愛の物語

 現代は不安に満ち、若い世代の中にも将来に展望が見えずに苦しむ人は少なくない。しかし《ナターシャ》では、不安を描きながらも、人間同士の理解は可能で次へと進むことができると、芸術を通じて示している。

「人間同士の関係性の構築は難しいものです。でも私は現代の方が前へと進む可能性があると思っています。いろいろな言語があっても今はある意味で一体化して共有できる時代。たとえば少し前までロシア語なんて日本人にとってはとても遠い言葉だったと思うんですよ。でも今は耳にする機会も増えたし、簡単に翻訳することもできる。あとは自分がどうやって関係を構築していくかという問題になってくるわけですが、それが私たち舞台芸術を提供する側の責任でもあると言い聞かせながら新しいプロジェクトに取り組んでいます」(大野)

 オペラの現代作品は難しいと言われがちだが、実際には先入観を持たない若い世代が実験的な作品にもすんなり入ってくる姿も見受けられる。今回の《ナターシャ》は現代的な問題をはらみながら、古今東西変わらぬ若者たちの愛の物語でもあり、幅広い世代に届く作品だといえよう。

(ライター・千葉望)

総合芸術であるオペラでは音楽のみならず、舞台全体が見ものだ。オペラ《ナターシャ》のHPは http://www.nntt.jac.go.jp/opera/natasha/(新国立劇場提供)
総合芸術であるオペラでは音楽のみならず、舞台全体が見ものだ。オペラ《ナターシャ》のHPは http://www.nntt.jac.go.jp/opera/natasha/(新国立劇場提供)

AERA 2025年8月11日-8月18日合併号より抜粋

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