スタッフとキャストが顔を揃えたリハーサル初日。「待ちに待ったプロジェクト」と語る芸術監督で指揮者の大野和士の話にも熱が入る(撮影:堀田力丸)
スタッフとキャストが顔を揃えたリハーサル初日。「待ちに待ったプロジェクト」と語る芸術監督で指揮者の大野和士の話にも熱が入る(撮影:堀田力丸)
この記事の写真をすべて見る

 この夏、東京・新国立劇場で話題のオペラが幕を開ける。ノーベル賞候補作家・多和田葉子が台本を書き、世界的に活躍する細川俊夫が作曲した《ナターシャ》だ。作品はいかにして生まれたのか。AERA 2025年8月11日-8月18日合併号より。

【写真】オペラ《ナターシャ》の台本を書いた多和田葉子さんと、作曲した細川俊夫さん

*  *  *

 今年8月、東京の新国立劇場(渋谷区・初台)において、2024/25年シーズンの最後に登場する新作オペラ《ナターシャ》が話題となっている。この作品は同劇場オペラ部門の芸術監督、大野和士による日本人作曲家委嘱シリーズの第3弾にあたり、昨年2月にシーズンのオペラ企画が発表になった記者会見でも、台本を作家でベルリン在住の多和田葉子が、作曲を同じくベルリン在住の細川俊夫が、指揮を大野が、という顔ぶれに記者の関心が集まった。

 多和田は日本語とドイツ語で執筆活動を行ってきた世界的な作家であり、近年はたびたびノーベル賞候補としても名前が挙がる。多和田と細川とは長年のつきあいがあり、「浦島太郎伝説」に基づく語りとアンサンブルのための作品《遠くから来たきみの友だち》を共作した経験も持つ関係だ。

《ナターシャ》には故郷を追われさまよう移民ナターシャ(ソプラノ)、青年アラト(メゾ・ソプラノ)、そして二人を七つの地獄へと誘うメフィストの孫(バリトン)が登場する。ゲーテの『ファウスト』に出てくるメフィストをどうしても出したいと提案したのは大野だった。

 森林破壊、洪水、干ばつなど彼らの前に現れる地獄は、人間が自然への畏れを失い、経済的富を追求し続けた結果生まれたものだ。歌われる言葉はウクライナ語、日本語、ドイツ語、中国語、英語と多言語で、このほか効果音的にさまざまな言語が使われる。

次のページ 現代的な「七つの地獄」