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 作家・片岡義男さんが評する「今週の一冊」。今回は『占領期カラー写真を読むオキュパイド・ジャパンの色』(佐藤洋一、衣川太一、岩波新書 1254円・税込み)。

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 この本の題名は『占領期カラー写真を読む』だ。占領期、という言いかたは、つうじないのではないか。日本がどこかを占領してたのですか、ときかれたら、日本はアメリカと戦争してたんだよ、その戦争にこてんぱんに負けた日本は、アメリカの政策として、占領されてたんだよ、とでも答えなくてはいけない。

 大敗戦の1945年から、GHQが廃止された1952年のたしか4月まで、占領は続いた。前年の1951年には、対日平和条約が調印されている。日本は独立国になった。ひとり立ちだ。占領下の日本を英語で言うならば、この本の副題にあるとおり、オキュパイド・ジャパン、だった。

 1945年から1952年まで、軍人あるいは個人を問わず、大量のアメリカ人が日本へ来た。250ページの岩波新書の、75ページから138ページまで、その彼らが撮った70年前の日本を、いまカラーで見ることが出来る。カラーとは、あとから着色したのではなく、コダクロームに代表される当時のカラープリント、という意味だ。

 銀座4丁目の角にある服部時計店は接収されてPX(売店)だったが、今日は休業だ。えんじ色のシャッターの前に米兵はいない。かわりにいるのは日本の少年たちだ。彼らは靴磨きを生業にしていた。トーキョー・シュー・シャイン・ボーイズだ。

 木炭バスと馬にひかせた馬車が混在する小田原駅前を、詰め襟の学生たちが歩いていく。奈良公園では『桜御殿』という映画が撮影されていた。この様子をアメリカ人が撮っていた。富士山麓の『戦国無頼』の撮影の様子も撮ってある。

 なんとなく外にいる幼い女の子たちは、被写体として絶好だったはずだ。どの子も身につけているものはコザッパリしている。まだ10歳にもなっていない女の子が、赤ん坊を背負っている。皇居前では、おしゃれをした少女たちが記念写真に納まった。銀座の三越前を晴れ着の着物を着た若い女性が歩いている。

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