
前述したように、「かりゆしウェア」の基準をクリアするためには、沖縄県衣類縫製品工業組合が認定する縫製工場で作られたものでなければならない。
「柄物がほとんどの『かりゆし』は、ミシンの作業で柄を丁寧に合わせるなど、注意深さも必要です。「縫製工」の確保は、年々難しくなっていいます」(大坪さん)
決して平たんではない、「かりゆしウェア」の製造と販売。そうした中で、「月桃物語」をはじめとした同社のブランドは、唯一無二の品質と商品づくりにこだわってきた。
そのひとつが、ブランドの名前にもある月桃のオイル成分を用いた服作りだった。
月桃は九州南部から沖縄地方の山野に育つショウガ科の植物。さまざまな効能があるとして、葉で食べ物を包み、実はお茶に、精油や虫よけなど広く親しまれており、最近は化粧品やパックなど美容商品でもお馴染みだ。
「うちでは抗菌や防臭、紫外線カットといった効能に注目しました。オイルから有益な成分を抽出して生地に付加して、より沖縄らしさを生かした『かりゆしウェア』のシリーズに挑戦。2年前にようやく販売までこぎつけました」
耐久テストも経ており、ある程度の洗濯や使用にも耐えるという。
令和に入り、天皇陛下や雅子さまは、晩餐会やご参会で日本酒や和食を提供するなど、国内の生産者や伝統工芸を応援し広く発信する「令和流」を見せている。
そして、素材を吟味し納得できる品質で丁重に作られた沖縄のかりゆし、「月桃物語」。

2022年、陛下と雅子さまが初めておふたりそろって沖縄をおとずれたとき、大坪さんら従業員は社長と、そう冗談半分に話をしていた。
「天皇陛下と皇后さまが、『かりゆし』を着て沖縄に来てくれたらいいね」
「かりゆしウェア」は、沖縄の伝統染織ものであり、どこでも着ることのできる正装でもある。
「そうしたら2度沖縄で、そして沖縄ではないご静養のときも、かりゆしを着てくださった。沖縄のみんなが励まされた。これからも、しっかりと良いものを造ってゆきたい」
これまで皇室は、その装いを通して、メッセージや思いを度々伝えてきた。戦後80年にあたるこの夏、天皇ご一家の思いは、たくさんの人びとに届いたに違いない。
(AERA 編集部・永井貴子)
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