
おすすめはミラノ風ドリアではなく……。料理研究家のリュウジ氏が、チェーンレストラン「サイゼリヤ」で高く評価する一品について語った。自身の料理哲学を語った最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けする。
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帰国した時点ではそこまで気づいてなかったのですが、世界各国を回って感じたのは、シンプルに日本の食レベルの高さでした。
出発前に描いていた「料理の道に進んでもいいな、どうせやるならイタリアで修業も……」という考えは、旅を経てきれいさっぱりなくなりました。そんなことをしなくても、日本のレストランで十分うまい料理を教わることができるからです。
日本の外食産業は、チェーン店のレベルも異様に高い。
サイゼリヤのティラミスの話をしましたが、世の中の料理好き、イタリア料理好きのなかには「サイゼリヤなんて大したことない」と馬鹿にしている人がいます。
それは完全に間違っています。たぶん、馬鹿にしている人の多くはあんまり料理したことないんじゃないかな。
「すごいと言わざるを得ません」
たとえばサイゼリヤのプロシュート(生ハム)はめちゃくちゃレベルが高い。ちゃんと食べて比較すれば、あのプロシュートは下手なところで買うよりもはるかにうまいことに気がつきます。
生ハムはそもそも空気に触れると酸化が始まってしまい、風味がどんどん落ちていきます。だからイタリアンレストランのなかには、生ハムの原木から都度スライスしたものを出しているところもあります。
注文が入ってからスライスしている店は信頼できます。プロシュートは切りたてが最高にうまいからです。
その点に注目すると、確かにサイゼリヤは切り立てではない。ですが酸化しないように、切ったものをすぐに真空パックしてお店に配送するという方法をとっています。
原木からその都度切っていくという方法は、ファミレスにとってコストが高すぎる。アルバイトに任せられる領域ではないからです。しかし、真空パックから盛り付けるだけなら簡単にできます。
あれだけうまいプロシュートをあの価格で出すための流通網を築き上げたのは、すごいと言わざるを得ません。サイゼリヤのティラミスとプロシュートに関しては、「これは本場じゃないね」などと言っている連中の味覚は信用しなくて大丈夫です。
(リュウジ・著『孤独の台所』では、10代の世界一周旅行での食体験、イタリアンレストランでの修業で気づいたオペレーションの大切さ、うま味調味料に対する考えの変化など、自身の料理哲学について語っている)
