持ち前の人懐っこい笑顔で撮影に臨む。そのキャラクターは、多くのスタッフから愛されている(写真:葛西亜理沙)
持ち前の人懐っこい笑顔で撮影に臨む。そのキャラクターは、多くのスタッフから愛されている(写真:葛西亜理沙)
この記事の写真をすべて見る

 作曲家・編曲家、ジョン・グラム。「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の音楽を担当するのが、ロス在住のジョン・グラム。「麒麟がくる」に続く2度目の大河ドラマ起用だ。江戸時代の歴史を調べ、日本で美術館にも足を運び、壮大できらびやかな「べらぼう」の世界の音楽を作り上げる。金融の仕事をしていた異色のキャリアを持つ。だが、音楽を捨てきれなかった。そんな生き方もまた「べらぼう」に合うのかもしれない。

【写真】「べらぼう」では100曲から120曲、時間にして7時間強の音楽を制作する

*  *  *

 3月某日。東京・渋谷にあるNHK内のレコーディング・スタジオで、日本の伝統楽器“筝(こと)”の気鋭の若手奏者・LEO(27)が、試行錯誤しながら楽器を鳴らしている。そんな彼に、コントロール・ルームから、英語で声が掛かる。

「譜面に縛られなくても大丈夫だ。まずはLEOが感じるままに弾いてみてほしい。エンジョイ!」

 声を掛けたのは、ジョン・グラム(64)。現在放送中のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の音楽を担当する、ロサンゼルス在住の作曲家・編曲家だ。この日は、ドラマ本編のあとに流れる「べらぼう紀行」のための音楽を、LEOとレコーディングしていた。

「優れたソロイストとセッションするときは、私が書いた楽譜通りに演奏してもらうこと以上に、その奏者の魅力を最大限に引き出すことが何よりも大事です。そのための雰囲気を作り出すことも、私の役割だと思っているんです」

 アーティストにありがちな、気難しい印象は皆無だ。しかし、その判断は速やかで、指示はごくごく明快だ。そこにユーモアを添えることも忘れない。そんなジョンが大河ドラマの音楽を担当するのは、2020年の「麒麟がくる」に続いて今回が2回目。大河ドラマの音楽を、日本人以外の作曲家が担当することは過去何度かあったものの、ここまで早いペースで2回目の起用となると、他に例がない。彼が生み出す音楽の魅力は、どこにあるのだろう。「べらぼう」の制作統括を務める藤並英樹(46)は言う。

次のページ 楽器を弾かなくても良い「作曲家」に