自尊心を傷つけられた日本人
【烏谷】いま、日本という国家は未来について論じても厳しいことばかりです。国の借金は過去最大の1300兆円を超え、人口は数十年後には8000万人台にまで減少する……。
日本に限らず、先進諸国は国力を維持できずに衰退しています。国力が低下していくという現象が、その国に生きる国民の精神にどのような影響を及ぼすものであるかは軽視できない問題です。
とりわけ隣国の中国は経済的にも政治的にも揺るぎない大国としての存在感を示すようになりました。なかには、このような現実を受け入れられない人もいると思います。日本人としての自尊心を傷つけられたように感じる人もいると思います。
しかし、こうした状況にもかかわらず、既存の政治家や政党は、国民を元気づけるような国家論や、未来の社会像を提示できなかった。
そんななか、不満を持つ層が何にすがるのか――それが陰謀論です。
自分たちが弱いわけではなく、誰かの陰謀や、姿を見せない敵のせいで日本が弱体化してしまっている。だからこそ、陰謀や見えない敵に打ち勝ち、強い日本を取り戻さなければならないのだ、と。このように論理を飛躍させた「パラレルワールド」を生み出すのが、陰謀論なのです。
参政党は「宿命的な存在」である
【烏谷】国力の低下を背景とした陰謀論の流行は、アメリカや日本だけで起きているわけではありません。どんな国でも社会でも、陰謀論的な言説によって、活力を得る層が一定数います。陰謀論は失った自尊心を取り戻すための元気のもとになるのです。
日本についていえば、そうした陰謀論によって元気になる層を取り込んで勢力を拡大させているのが、参政党なのです。
参政党にはすでに約150人の地方議員がいます。一時的に躍進した泡沫政党だと受け止めるのは危険です。参政党は国力の低下に苦しむ日本社会にとっては、宿命的な存在だと考えた方がいいと思います。
――参政党は、現在はトーンを弱めたものの「反ワクチン」を主張しています。神谷代表はかつて、日本がユダヤ系の国際金融資本を中心とする組織の支配下に入っていると語っています。
トランプが、不正選挙陰謀論を前面に押し出すことによって共和党内の権力基盤を固めていったように、参政党も熱心な支持者たちを集めるために「反ワクチン」や国際金融資本の陰謀論を積極的に語ってきました。
しかし、今の日本の選挙でより広い層に訴えていくためには、陰謀論は必ずしも有効な道具ではありません。そのため選挙戦では、陰謀論の色を薄めながら支持拡大を狙っているようにみえます。とりわけ神谷代表は、政策論の言葉と陰謀論の言葉を巧みに使い分ける人物だと思います。