二人に一人が、がんになる時代。そう言われて久しくなります。
 親族や知り合いの誰かががんになる、そんな経験を誰もがしているでしょう。そして、その「誰か」が自分になる可能性もあります。がんは決して他人事ではないのです。
 そんな身近な病気でありながら、「がんになったら人生はおしまい」「苦しみながら死んでいく」といった恐ろしくマイナスなイメージが社会に定着しています。
 それは、メディアによる「壮絶ながんとの闘い」や「過酷な闘病生活」といった扇情的なコピーのせいかもしれませんが、現在のがんの治療現場はまったく違います。
 すぐれた検査機器の登場で早期発見・早期治療が可能となり、日帰りでがんの手術を受けられるケースも増えています。治療の選択肢も多数ありますし、何より、本人の希望する治療を受けられる時代です。
 患者さんがもっとも恐れる「痛み」に関しても、99%コントロールが可能です。
 そして、日本人の死亡原因のうち、がんが占める割合は約30%。つまり、がんになっても半数近くはがんで亡くなってはいません。このように「がん=死」というイメージには根拠がないのです。
 とはいえ、こうしたポジティブな情報はなかなか広がらず、がんになると、ほぼすべての人が「死」を意識し、精神的に打撃を受けてしまうのです。
 私が専門とする精神腫瘍科は、「がんで落ち込んでいる患者さんの心を元気にする」のがミッションです。そして、このミッションにはとても大きな意味があります。
 それは、患者さんの心のケアをすることが、がんの予後を左右するという研究結果が出ているからです。
 つまり、心の状態とがんは密接な関係があり、心の状態をよくするのは、がんの治療にはとても重要といえます。
 そして、精神腫瘍科では、「薬を使わずに心を元気にする」方法をたくさん持っています。
 それを紹介したのがこの本です。運動する、瞑想する、ストレスを上手に逃す、ネガティブな考え方を変えていくなどの「心を元気にする方法」を精神論ではなく、科学的な根拠に基づいてわかりやすく解説しています。
 また、私のもとを訪れた多くの患者さんのエピソードをまじえて紹介しているので、より一層リアルに感じられるでしょう。
 がんの標準治療は、手術、抗がん剤、放射線治療ですから、「治療は医師任せ」という人もまだまだ多いのが現実です。しかし、「心を元気にする治療」は、自分自身でできることがたくさんあります。病院で一方的に治療を受けるのではなく、自分の体を自分でよくすることができる、それは素晴らしいことだと思いませんか。本のタイトルにもなっている、「がんでも、なぜか長生きする人」は、自分の心を元気にするさまざまな習慣を実践しています。
 本書では、その方法をしっかり伝えているので、患者さんご本人はもちろん、患者さんを取り巻く方にとっても、参考になるでしょう。
 そして、がんの治療でもう一つ大切なのは、「がんは慢性疾患である」と理解することです。
 病気は、「完治する病気」「完治しない病気」に大別できますが、風邪や虫垂炎などは前者で、がんは後者に分類されます。しかし、完治しないという点では、高血圧や糖尿病、関節リウマチなども同じです。
 良い状態をキープし、コントロールしていくことで気長に一生つき合い続ける病気。そう考えると、がんが慢性疾患であるのがわかるでしょう。
 慢性疾患では、それまでの生活を見直し改めることが求められます。がん患者さんが、思い切って仕事のスタイルを変えてみたり、食生活を根本的に変えたり、ストレスをためない生活を心がけるようになると、がんに変化を与えるだけでなく、その他の生活習慣病も防いで健康になっていく例を、私はたくさん見てきました。
 命を脅かす病気のリスクは、急性心筋梗塞、脳卒中などさまざまです。それらも含めて予防できるのですから、こんなにうれしいことはありません。
 そして、がんは私たちに「生きる意味」「自分の与えられた役割」をあらためて考えさせてくれるチャンスです。
 つまり、この本には、がんになった人のためだけではなく、あらゆる人が心身ともに健康で生きるためのエッセンスがぎっしりつまっているのです。
 一人でも多くの方に手に取っていただき、より良い生き方のお手伝いになることを、心から願っています。