
パンダ界のアイドル・シャンシャン誕生の裏には、上野動物園の飼育スタッフたちの奮闘があった。飼育展示課長として携わった渡部浩文さん(現・多摩動物公園長)に誕生前夜からその瞬間を振り返ってもらった。
* * *
数日前からのシンシンの食欲の減退、徘徊行動など、出産の兆候が見られ、2017年6月11日夜には出産が近いと現場からの情報があり、6月12日早朝に協会幹部を含め、関係者が上野動物園に集合することになった。私も自宅からタクシーで上野に駆けつけた。朝6時の段階では、すぐに生まれてもおかしくないとも思われたが、現場からは少し状況が収まったとの情報もあった。出産後はすぐ発表しなければならないため、都庁側にも連絡を入れていたが、7時すぎに一旦待機態勢が解除となった。
午前中の様々な対応を済ませた時点でも、まだ出産していない状況だったので、私は11時すぎに旧パンダ舎2階の詰所に赴き、モニター越しにシンシンの様子を観察することにした。1階の「産室」の周りには、中国の専門家と当時の班長らが詰めていた。
さて、読者の方々は、パンダがどのように「生まれる」かについてご存じだろうか。いわゆる「飛び出て」くるのである。これは世界各地の飼育下での繁殖例で観察されWeb上に当時も動画が提供されていたが、歴代の上野の出産時の映像記録は僅わずかで、あまり公表していなかった。
なぜなら、過去2度の上野におけるパンダの出産は、「環境を整えて動物に出産と子育てを任せる」方式で、メスが出産前に動物舎内にいわゆる「巣作り」をし、飼育担当者は巣の中をあまり見ないで、静かな環境を整えることに注力してきたからだ。
親に仔をしっかりとケアさせることが第一であり、あまり大きな物音がしないように、ヒトと動物との接触は僅かであった。
しかし、2000年代からのパンダの飼育下での個体数増加は、飼育担当者がある程度「介入」して、非常に未熟な状態で生まれる仔の生育率を高めることが成功の大きな要因となってきた。このため、2012年もそうであったが、限られたスタッフが出産間近の動物のそばで観察を行っていた。
11時52分、モニターで赤ちゃんが飛び出てくる姿が見え、大きな産声がスピーカーから聞こえ、仔が誕生した。まずは、ほっとするとともに、その後の対応、無事に生育させなければならないといったプレッシャーを感じた瞬間だった。
