『SIDE TRACKS』BOB DYLAN
『SIDE TRACKS』BOB DYLAN

 編集担当Kさんからの提案を受けて、本サイトでボブ・ディランをテーマにした連載を開始したのが、2016年の8月。10月に入り、ボブ・ディランがローリング・ストーンズやニール・ヤングらとともに1週目のデザート・トリップ・フェスティヴァルに出演した直後、「ディランにノーベル文学賞」というニュースが伝わり、これまでより幅広い層の人たちのあいだで、さまざまな形でボブ・ディランという芸術家について語られるようになった(えっ、村上春樹じゃないの? という街の声には苦笑してしまったし、報道でプロテスト・シンガーと紹介されたりしてしまうことには強い違和感を覚えたが)。ディラン作品の日本でのリリースをほぼ一手に手がけてきたレコード会社は、一般紙に全面広告を出すなど、力の入った祝福プロモーションを展開している。

 そういった想定外の動きのなかでの連載となったわけだが、ともかく、アルバム20作品に絞ってボブ・ディランの歩みをたどるという当初の目的は前回のコラムで無事に終えることができた。あくまでも「僕なりに」ということだったが、なにかの参考や手がかりになれたとしたら、幸いだ。今回からは、それを補填する意味で、4回にわたって、オリジナル作品以外のコンピレーション・アルバムなどに触れていきたい。まずは、『サイド・トラックス』。

 2013年秋、『ボブ・ディラン』から『テンペスト』までのスタジオ録音35作と『MTVアンプラグド』を含むライヴ6作をまとめたCDボックス・セットがリリースされている。タイトルは『ザ・コンプリート・アルバム・コレクションVol. One』。それだけでディスク45枚という強烈な内容なのだが、そこにはさらに『サイド・トラックス』とタイトルされた2枚組がプラスされていた。シングルのみのフォーマットで発表された曲などいわゆるノン・アルバム・トラック30曲を録音時期の順に並べたものだ。基本的にはすべて、グレイテスト・ヒッツ集や『バイオグラフ』などのコンピレーション・アルバムに収められていた曲なので、未発表曲集ではないものの、参加ミュージシャンも明記されていて、資料的価値も高いトラック集に仕上げられている。

 原則的には、47枚組のボックス・セットを入手しなければ聴くことができなかったこのアルバム、アメリカではアナログ3枚組という形で限定発売されているのだが、日本では、2014年の来日公演にタイミングをあわせて(レコード会社の歴代担当者の熱意が通じたということか?)、CD2枚組のフォーマットがリリースされている。しかも、アナログ版のスリーヴをそのまま紙ジャケット化するというこだわりだ。

 ハイライトは『ハイウェイ61リヴィジテッド』のセッションで録音され、65年秋にシングルとして発売された「ポジティヴリー4thストリート」。シンブルなコード進行と、アル・クーパーのオルガンを生かしたアレンジ、そして「僕の友だちだって? いい神経しているよ」という歌詞がジョン・レノンにも強い刺激を与えたといわれている曲だ。ほかには、リオン・ラッセルと録音した「ウォッチング・ザ・リヴァー・フロウ」、ハッピー・トラウムと録音した「アイ・シャル・ビー・リリースト」、ラリー・キャンベルとチャーリー・セクストンが在籍していた時期のネヴァー・エンディング・ツアー・バンドと録音し、2000年公開の映画『ワンダー・ボーイズ』に提供した「シングズ・ハヴ・チェインジド」など。いずれも、何度も耳にしてきた文字どおりの名曲だが、この『サイド・トラックス』の流れのなかで聴くと、また別の表情が浮かび上がってくるようだ。[次回1/25(水)更新予定]

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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