
顔に極端な変形を持つエドワード(セバスチャン・スタン)は隣人のイングリッド(レナーテ・レインスヴェ)に惹かれる。彼は外見を劇的に変える治療を受けて新しい顔になるが、かつての自分にそっくりなオズワルド(アダム・ピアソン)が現れて──!? 衝撃のスリラー「顔を捨てた男」のアーロン・シンバーグ監督に見どころを聞いた。





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私は両唇口蓋裂を持って生まれ、矯正手術を何度も受けています。その経験がどのように自分の人生に影響してきたのかを常に考えてきました。同時に障害というテーマが映画業界で正しく描かれてこなかったと感じてきました。そんなとき前作でアダム・ピアソンに出会ったのです。前作で彼は内向的な主人公を見事に演じてくれましたが、本人はものすごく外向的で活発な人です。正直ショックを受けました。私は自分の障害によってシャイな人間になってしまっていた。でも彼と出会ったことで自分の生き方を考え直しました。本作にはその経験も影響しています。
前作でアダムをキャスティングしたことで一部の人から「搾取的だ」と批判を受けました。しかしこれまでのように役者に特殊メイクをして演じさせることへの批判もあった。じゃあどう描けばいいのか?と考えたとき、両方を同時に描けばいい!と思いつきました。

セバスチャン・スタン演じるエドワードにとって手術は外見を変える目的のためだったわけではありません。彼は医者に「視力も聴力も落ちてきている」と診断されそうせざるをえない状況にあった。しかし外見が変わったことによる変化はあまりに大きく、そのなかで彼は「自分自身は変われない」という葛藤に落ちていくのです。
SNS時代のいま、見た目を重視する風潮があるのはたしかです。でもこのテーマは100年前でも変わらないと思います。私は人々や社会が障害者をどう受け入れているのかをストレートに描きたかった。外見は内面に影響するのか、真に大切なものはなにか。答えは出ていません。私自身「自分は誰なのか」を考え続けるでしょう。「自分を受け入れることだ」とも言われますが、そのゴールはなかなか見えてこないと思いませんか。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年7月14日号
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