「儲かっている米農家なんて、どのくらいいるんでしょうか。1日12時間以上働いて、自分の給料が出ない月もざらです」と話す、新潟県南魚沼市の米農家・笛木竜也さん=米倉昭仁撮影
「儲かっている米農家なんて、どのくらいいるんでしょうか。1日12時間以上働いて、自分の給料が出ない月もざらです」と話す、新潟県南魚沼市の米農家・笛木竜也さん=米倉昭仁撮影

従来コシヒカリのほうがおいしい

「導入当時はまだ、農家の間には『JAの言うことを聞いていればうまくいく』『JA様』みたいな雰囲気があった。でも、父は『従来コシヒカリのほうが絶対においしい』と、作り続けてきた銘柄にこだわった。私も、同意見です」(同)

 20ヘクタールの水田のうち、約3分の1は無化学肥料・無農薬で従来コシヒカリを育てる。そのうち約2割は「はざ掛け」と呼ばれる天日干しの米だ。

 現在の販売ルートの約8割は竜也さんが飛び込み営業をするなどして開拓したものだ。販売先の7割弱が卸売業者や米店で、遠く香川県の業者もある。残りは自社のオンラインショップや通販サイトで販売する。

コメの価格が上がり飛ぶように売れた

「令和の米騒動」が起こったのは、徐々に販売先が増えてきた矢先だった。60キロ2万7000円(米店への卸売価格)の米が飛ぶように売れた。

「今年の米の売価については、まだ卸売業者と話し合っていませんが、『販売量を増やしてほしい』という要望が次々にきています。私を含めて5人で水田を管理していますが、増産がとても間に合わない」(同)

 やはり、今年はさらなる値上がりが必至だろうか。だが、こずえさんは「とても悩ましい」と、価格については慎重な姿勢を見せる。

安定しておいしいお米を届けたい

「苦しいときに助けてくれた卸売業者や米店、消費者のみなさんに安定して、継続してお米を届けたい。それと同時に、JAの仮渡金(概算金)よりも安くして、ブランド価値を下げたくない」(こずえさん)

 竜也さんとこずえさんはできる限り米作りを継続したいと考えている。引退した高齢者から借り受けた水田もある。

「自分たちが稲作をやめて、田んぼが不耕作地になるのはとても心苦しい。誰か引き継いでくれる人が見つかるまで、稲作を継続できる値付けをしなければならないと思います」(同)

定年間近に米作りをスタート

 福島県天栄村で長年農政を担当してきた吉成邦市さんが米農家になったのは、定年間近の7年前だ。それまでは村の職員として、07年、日本一の米作りを目指し、約30軒の農家とともに「天栄米栽培研究会」を立ち上げた。データ分析に基づく米作りを実践、「米のオリンピック」と呼ばれる「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で9年連続金賞受賞に導いてきた。現在、吉成さんは無化学肥料・無農薬米などを栽培し、さまざまな大会で高く評価されてきた。

「これまでみんなに言ってきたことが、本当に正しかったのか、身をもって確かめてみたかった」と話す。

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