
米の価格の高止まりが続いている。生産農家がさぞ特需に沸いているかと思いきや、心中は複雑だ。労力とコストをかけてプレミアム米を栽培する農家ほど、値付けに悩んでいるという。
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1日12時間労働で自分の給料が出ない月も
「儲かっている米農家なんて、どのくらいいるんでしょうか。魚沼地域でも、個人経営の米農家で赤字なんて、珍しくないですから」
日本有数の米どころ、新潟県南魚沼市。さぞ、地元は「特需」に沸いているかと思いきや、同市の米農家「フエキ農園」の代表取締役・笛木竜也さんはそう話した。
米の卸売価格の長期低迷が続くなか、笛木さんが父親から農園を継いだのは5年前。精米施設など、先代がさまざまな設備投資をしたので、借入金の返済やリース料の支払いが年間約1300万円もあった。
「マイナスからのスタートでした」と、同農園の取締役・笛木こずえさんは振り返る。
昨年、ようやく黒字に転じたものの、苦しい経営状況は今も続く。
「今年も3月から育苗を始めて、6月に田植えが終わるまでほぼ休みなし。1日12時間以上働いて、自分らの給料が出ない月もざらです」(竜也さん)
売れずにコメが積み上がり…
特につらかったのは、作った米が売れなかったことだ。農園を継ぐ前、竜也さんの父親は米の販売会社も経営していたが、その会社を切り離したため、販売先が十分になかった。収穫した米は、倉庫に積み上がった。
「就農して最初の年は、『いったいこの米をどうするんだ。もう嫌だ』と思いながら、田植えをした。刈り入れをすると、また米が積み上がった」(竜也さん)
「つらかったね」(こずえさん)
在庫を増やさないようにするため、赤字経営でも米の販売価格は低めに設定せざるを得なかった。新米が出た時点で売れ残っていたら、その米はもう売れないからだ。
「うちの中で『備蓄米』になってしまいます(笑)」(竜也さん)
従来のコシヒカリを育てたかった
JAには米を出荷しないのか。
「父親はJAと仲が悪かった。JAが指導した『コシヒカリBL』を作付けせず、従来種を栽培し続けることを選びました」(竜也さん)
新潟県は2005年、いもち病への耐性を高めたコシヒカリBLを導入した。BL種は同県内でしか栽培されない。それをDNA鑑定で証明できるため、産地偽装を防げるという。
