JAも概算金「2万6000円」を提示

 それでも、吉成さんの地元のJAの集荷率は「6割ぐらい」(同)。全国平均が「4割」といわれるなか、悪くない集荷率だが、今、JAは巻き返しを図ろうと、必死だという。

「今年の春の段階で、概算金2万6000円を打ち出してきた。すごい金額です」(同)

 となれば、他の集荷業者は、それ以上の買い取り金額を提示してくる。価格はどんどん吊り上がる。

 東京大学大学院・鈴木宣弘特任教授によると、これまでJAの集荷率は約4割を維持してきたが、「昨年は3割弱に低下した」。JAグループは大手の卸売業者や外食チェーンなどと大口契約をしているため、集荷量の未達成は、信用にかかわる深刻な問題だ。

「今、JAに米が集まらない。巻き返しを図ろうと必死」と語る、福島県天栄村の米農家・吉成邦市さん=米倉昭仁撮影
「今、JAに米が集まらない。巻き返しを図ろうと必死」と語る、福島県天栄村の米農家・吉成邦市さん=米倉昭仁撮影

JA全農にいがたも2万3000円を提示

「買い負けて困るというなら、JAが最初から他の集荷業者が手を出せない金額を提示すればいいんですよ」と、前出の伊藤さんは言う。

 通常、概算金は収穫期ギリギリのタイミングで農家に提示される。ところが、最近はすっかり様相が変わった。

 作付面積、収穫量ともに全国一の新潟県の「JA全農にいがた」は今年2月、県内のJAに最低保証額として、概算金60キロ2万3000円(1等米コシヒカリ)を提示した。前年当初より6000円高いうえ、さらに上がるのはほぼ確実だ。新潟県以外のJA全農も軒並み概算金を上げている。

 昨年、米の買い取り価格は「あれよあれよという間に上がった」(伊藤さん)。

 栄営農組合の米の出荷額は平均60キロ2万2000円ほどだった。

適正価格は「5キロ3500円」

 今年の米の価格はどうなるのか。意外なことに、伊藤さんは、「生産者の私でさえ、5キロ4000円台の売価は高いと思う」と言う。米の適正価格はいくらなのか。

「私は、生産者がキロ250円ほどの利益を得られる価格で売れれば、上等だと思う」(同)

 集荷業者への売り渡し価格は60キロ3万円、5キロ2500円という計算になる。

「店頭に並ぶまでに流通コストなどが1000円乗れば、5キロ3500円前後。それくらいの価格で生産者と消費者が折り合えればいいと思う」(同)

 伊藤さんは地元のJAとも「ウィンウィンの関係でありたい」と話す。

 同組合の隣に立つのはJAの低温倉庫だ。昨年、同組合は収穫した米の13%をJAに出荷したが、それ以外の米もここで保管してもらう。精米もJAに委託している。

「長年、一緒に米作りをしてきたJAは、『農家の砦』。彼らに悪態もつくけれど、『頑張れよ』と」(同)

 それが、伊藤さんの本心だ。

(AERA編集部・米倉昭仁)

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