小泉純一郎元首相(右)と息子の進次郎氏
小泉純一郎元首相(右)と息子の進次郎氏

「小泉」が生む造反劇

 その小泉の後継者こそが、農林水産相の小泉進次郎だ。

 不人気の首相に「情」で寄り添いつつ、自身が表舞台に立つなり、「理」をまとう。変幻自在の「破壊者」にテレビが飛びつき、党勢が一気に回復する。

 そんな「平成小泉劇場」の再演に、淡い期待を寄せる自民党関係者は少なくない。

 だが、訳知り顔で大風呂敷を広げる農相を見るにつけ、16年夏の参院選で起きた造反劇を思い出す。

 当時は、第2次安倍政権だった。「一強」の安倍晋三は前年に環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で大筋合意すると、党農林部会長に門外漢の小泉ジュニアを起用した。

 やがて自民党の選挙を支えてきたJAとの間に軋轢が生まれた。参院選では生産者側からの反発がやまず、東北5県をはじめ全国10府県のJA系政治団体が自民党候補の推薦を見送ったのである。

「自主投票」の結果、自民党は5県で敗北。その後、小泉の農協改革は骨抜きにされた。

 今回は、自民党農林族のラスボス、森山裕幹事長が農政の手綱を握り続ける限り、選挙期間中にJAの離反は起きないだろう。ただし、軽率な言動は農相の宿痾である。無邪気に口をすべらせ、「JA悪玉論」をあおれば、戦況は一変するに違いない。

 小泉純一郎の口癖に「負けて覚える相撲かな」というフレーズがある。父は2度の総裁選敗北から多くを学び、「変人」のまま勝ち抜く術を身につけた。

 では、息子はどうか。

 昨秋の総裁選で惨敗し、持論通りの「即時解散」で迎えた衆院選では党選対委員長として与野党逆転を招き、引責した。

 その後は、党の政治改革本部事務局長など地味な党務を引き受け、再び「雑巾がけ」に徹すると再評価の機運も芽生えた。

 農相就任後、総裁選で仇となった「極論」を控え、性急な改革よりも「カイゼン」を心がけているように見える。むやみに背伸びもしていない。負けた相撲から学んだ片鱗が、些かうかがえる。

 偉大なる父の十字架を背負うのは、石破も同じだ。「父」といっても政界の父、田中角栄のことである。

 実は、田中は首相在任中の参院選が命取りとなった。

 1972年の就任時には「今太閤」ともてはやされたが、石破と同様、衆院選で後退した。与野党伯仲状態に追い込まれ、74年夏の参院選では非改選を含む単独過半数に1議席及ばなかった。すると「角福戦争」が再燃。政権運営がままならず、5カ月後に退陣を余儀なくされた。

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