橋本龍太郎元首相
橋本龍太郎元首相

橋本龍太郎の至言

 ただし、巳年は、風頼みの都議選が参院選の直前に控えている。都議選で躍進した政党は参院選でも台頭する、といわれる。各党のリーダーたちは大局を見渡しながら、深謀遠慮をめぐらせる一方で、刹那に無党派層のご機嫌を取る必要にも迫られるのだ。

 すなわち、右顧左眄する政権与党の姿は、巳年特有の「逆算」がもたらす帰結なのである。

 前出01年の巳年は、森政権だった。自民党が逆算を重ねた結果、首相のクビまで挿げ替えた一例である。

 前年、現職首相の小渕恵三が病に倒れ、党内の談合でベテランの森喜朗にお鉢が回ってきた。ところが、政権発足後の衆院選で単独過半数割れ。公明党と保守党との数合わせで、何とか続投できた。

 下馬評を覆す不人気首相の登場。直後の衆院選大敗。弱い与党を従え、自身の問題で墓穴を掘り、低支持率にあえぐ──。森が迷走した道筋は、巳年の石破とそっくりではないか。

 野党は森の失言癖をやり玉にあげた。たちまち党内は「森では参院選は戦えない」となり、「加藤の乱」を皮切りに倒閣の火種がくすぶり続けた。

 すると森は01年春、新年度予算に成立の目途をつけるなり、退陣を表明した。背後には、参院選での逆転シナリオを描く最大派閥のドン、青木幹雄が率いる参院自民党などからの圧力があった。

 きょうび、永田町では24年前ほどのエネルギーは感じられない。だが、巳年ならではの魔力が為政者を苦しめる図式は、何ら変わらない。

 そして、24年前との大きな共通点がある。不人気与党に起死回生をもたらしたトリックスター、「小泉」の登場である。

 森の後継をめぐる党総裁選で、前出の橋本が最大派閥の力学で難なく総理再登板を決めるのかと思いきや、ダークホースが現れた。それが、「変人」と呼ばれた小泉純一郎であった。

 森派の会長だった小泉は、派閥離脱を表明し、刷新感を演出。「自民党をぶっ壊す」と国民世論に訴え、三度目の正直で首相の座を手にする。

「選挙の顔」をアップデートした新生自民党は、夏の都議選と参院選で世論の地すべりを巻き起こした。内閣支持率は70%を超え、全国27の参院1人区では25勝2敗と勝ち越し、絶体絶命の政権与党を救ったのである。

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