毎年10月になると日本のマスコミはノーベル賞の話題で賑やかになる。とくに文学賞はここ数年、有力候補とされている村上春樹の受賞が注目の的となっている。
村上春樹は受賞できるのか、何故できないのか、読者の関心はそこにある。しかし、本書の力点は「ノーベル文学賞とは何か」に置かれている。この文学賞の本質に向けてあらゆる角度から照射した文芸評論家の労作である。
だが、春樹文学の受賞の可否について避けているわけでもない。つまり、春樹文学は「世界文学」として海外で通用するのかどうかにかかっている、と著者は言う。この賞の政治的色合いや順番制などを考慮すると、可能性は遠のく気がしないでもない。
受賞した川端康成、できなかった三島由紀夫らの興味深いエピソードなども掲載されている。 (村上玄一)
※週刊朝日 2017年1月20日号