トップは明るく楽しくというほうがいい。厳しいときもみんなが「大変だ」と言うと、本当に大変になるので基本的に楽観主義だ。越えられない壁はなく何とかなるから明るくというのは大事だし、よく笑うことも大事だ(写真/狩野喜彦)
トップは明るく楽しくというほうがいい。厳しいときもみんなが「大変だ」と言うと、本当に大変になるので基本的に楽観主義だ。越えられない壁はなく何とかなるから明るくというのは大事だし、よく笑うことも大事だ(写真/狩野喜彦)

会計士や税理士に毎日会って意見交換手本は仕えた社長

 2001年4月にソニーへ入社し、ネット事業部門へいきたかったが、配属先は経理部経理課。ずっと、誰かが事業に使ったおカネの後処理よりも、自分でおカネを使って価値を生む側へいきたいとの思いが続く。そんななか、ソニーが半額出資したマネックス証券へ出向する社内募集を知って、応募した。

 高田馬場のマネーフォワード本社はシステム開発が増えていくと手狭となり、渋谷区恵比寿のひと回り大きな部屋へ引っ越した。ここで2013年11月、個人事業主や中小企業向けの会計支援サービスを始める。起業から1年半、二つ目の主力サービスが生まれた。この間、多忙のなか、公認会計士や税理士らを毎日訪ね、アドバイスや意見を聞いては開発陣に伝える。マネックス証券で間近に見続けた松本氏の行動が、手本だ。

 二つ目のサービス開始日、みんなで仕事を早く終え、近くのビアホールへいって乾杯する。そのビアホールがあったところへも、『源流Again』で寄った。ビアホールは模様替えされていたが、その前に立てば「人生で一番うまかったビールです」という言葉が、自然に出る。

 ただ、いくらいいサービスでも地味だけに、売上高が伸びるには時間がかかる。開業資金が減り、社員たちの給与をいつまで払えるか、心配になった。そんなとき、5億円の出資話がきて、驚いた。みどころのある創業期の企業に積極的に投資していたジャフコの担当者2人がきたので、サービスの内容やメンバーを説明した。2人は「サービスがすごくいい。経営チームもいい」と、評価してくれた。

 出資が正式に決まる日、JR恵比寿駅前の銀行のATMへ何度もいって、通帳を記帳しては「まだ入っていない」を繰り返す。やがて5億円の入金が記帳されると、会社へ電話をした。社員たちが歓声を上げたのは、もちろんだ。

 個人事業主や中小企業向けのサービスの利用は、いま約40万社になった。毎日、誰かと会って、サービスをよりよくする話を聞く。新機能を一つ出して利用者が便利になると、オンライン家計簿を使う個人は1700万人、個人事業主や中小企業なら40万社の生活が少しでもよくなる。そう考えると、幸せ感がある。

 マネックス証券で松本氏との日々が生んだ『源流』は、もう辻さん自身が切り拓いた流域を、進んでいる。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2025年6月30日号

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