本社置いた高田馬場みんなで計算した最も効率いい通勤先
打ち合わせの議事録をつくるにも、飛び交う用語の意味が分からず苦労した。でも、仕事に慣れて、気が付いた。松本氏は連日連夜、誰かと会っている。聞くと、新しい技術や事業の動きを聞き、意見を交わしていた。想像していた「ネット証券の先駆けで成功した起業家」とは、違う。「成功するには、ここまでやらないといけない」と知り、毎日、人と会うという辻庸介さんのビジネスパーソンとしての『源流』が生まれた。
マネックスには出向期間の3年が終わっても残り、ソニーから転籍。2012年5月に退社し、金融データサービスのマネーフォワードを設立した。『源流Again』で起業の地、東京都新宿区のJR高田馬場駅に近いマンションも訪ねた。創業メンバー6人で、通勤時間を足した時間が最も小さい場所、つまり通勤効率が最もいい街を計算すると、高田馬場となる。
マンションは縦長で、本社はワンルーム。面積は6坪で約20平方メートル。会社を辞めて退路を断った6人の熱気は、狭いからだけではなく、窓の外まであふれていた。
同年暮れにオンラインの資産管理サービス「マネーブック」を始めたが、個人の資産運用の成功例がみれるようにしたことに苦情が出て、すぐに止めて、3カ月でシステムを修正する。これが、いま登録者1700万人になったオンライン家計簿「マネーフォワードME」だ。
『源流』が生まれた松本氏との日々に、様々なことを学んだ。同氏は機関投資家にしか手に入らないような金融商品をインターネットで個人へ提供し、「資本市場の民主化」と言った。大企業が対象でなく、個人へよりいいものを届けたい。その思いは、マネーフォワードのオンライン家計簿にも、受け継がれている。
1976年6月に大阪府池田市で生まれ、父は会社員、母は専業主婦で2歳下の弟と4人家族。幼稚園へ入る前に大阪市天王寺区へ転居、大阪教育大学教育学部附属平野小学校から甲陽学院へと進む。
小学生のときだ。祖母の月命日に、祖父宅に親類が集まって食事会をしていた。あるとき、祖父が経営幹部のみるような経済指標をまとめた紙を、渡してくれた。みても小学生には分からないのに、なぜくれたのか。ただ、経営者を取り巻く厳しい環境のようなものを感じた。そんなことが祖父とは何度かあり、『源流』の水源になっていく。
96年4月に京都大学農学部へ入学、バイオ工学を学ぶ。当時は「生物の神秘的なことがやれればいいな」と思い、入ってからよく考えようと思ったが、全く勉強しなかった。代わりにグローバルビジネスに関心を強めていく。