
コロナ禍にドゥームスクローリング
日本デジタルデトックス協会の森下彰大理事によると、「ドゥームスクローリング」という言葉は、コロナ禍に、海外のメディアで登場するようになったという。
森下さんは「心理用語で『ネガティビティ・バイアス』と呼ばれますが、人の脳はそもそも、ポジティブな情報よりネガティブな情報に強く反応する性質があります。また、新しい情報をより欲する特性があるのです」と指摘する。
戦争などに関する情報は「ネガティブ」で「新しい」。そんな情報がランダムに、大量に届く。さらにスマホだと、すぐにそれらにアクセスできる。
「依存性が高まる要件を満たしている上に、同じような内容のニュースが表示されやすい。さらに自分と似た意見を持つ人の情報ばかりが集まる『フィルターバブル』という現象が起きます」(森下さん)
結果、どうなるのか。
フェイクニュースを疑えなくなる
「情報をあさり続けることで脳に疲労が蓄積し、情報の選別ができなくなっていきます。明らかなフェイクニュースなのに、疑うことができなくなってしまう恐れがあります」
うつ状態になったり、脳のキャパシティがなくなった結果、考える力が衰えたり物覚えが悪くなったりして、仕事の能率が著しく落ちてしまう。
さらには正義感から「みんなに知ってほしい」との思いにとらわれて、その話ばかりや、はては陰謀論めいた話まで周囲に語ってしまい、対人関係に支障をきたすケースもあるという。個人にとどまる問題ではないのだ。
社会的孤立や孤独
ドゥームスクローリングの背景には、社会的孤立や孤独があるのではないかと森下さんは指摘する。
「他人と気兼ねなく対話をする場が少ないから、ネットの世界にこもる。同じような情報やSNSの意見に囲まれるため、そこが心地良い居場所になってしまうのだと思います」
いまこの時も、日本の先行きを不安視し、あおるようなニュースが少なくない。ウクライナ戦争も終結せず、中東情勢も不安定だ。ガザの悲惨な状況が連日報じられる。トランプ米大統領の施策による「分断」も指摘されている。
ドゥームスクローリングに陥らないためには、どんな対策が有効なのか。
森下さんは、「歴史上、どの時代も不安定で悲劇的な出来事があり、今が特別に激動の時代ではないことを知る必要があります」と指摘する一方で、「人間がネガティビティ・バイアスに抗うことは不可能で、意思が弱いなどと自分や他人を責めることに意味はない」とも言い切る。