ニューヨークのテスラ店舗前で行われた抗議。マスク氏は援助活動にあたってきた米国際開発局(USAID)を「犯罪組織」と非難した(写真:ロイター/アフロ)
ニューヨークのテスラ店舗前で行われた抗議。マスク氏は援助活動にあたってきた米国際開発局(USAID)を「犯罪組織」と非難した(写真:ロイター/アフロ)
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 子どもの喧嘩のようなトランプ大統領とイーロン・マスク氏の関係の行方は──。米国では、マーケットを中心に異例の「トランプ劇場」を見守っているという。AERA 2025年6月23日号より。

【写真】トランプ氏とマスク氏、親密だった「関係」は決裂へ向かうかと思われたが……

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 トランプ氏とマスク氏の全面衝突という事態は、シリコンバレーや金融機関のトップらに「どちらを支持するのか」という踏み絵を突きつけていた。多くがマスク氏を支援した場合、トランプ氏は今後の経済政策やトランプ関税を推進するにあたり、大きな影響を受けるからだ。

 ウェドブッシュのアナリスト、ダン・アイブス氏はCNNのインタビューに対し、トランプ氏とマスク氏が今後数カ月をかけて徐々に関係を修復していくことに期待感を示し、こう述べた。

「結局のところ、トランプ氏はマスク氏が共和党と緊密な関係を保つことを必要としている。マスク氏も自動運転車のための連邦制度の承認といった、さまざまな理由でトランプ氏を必要としているのだ」

 トランプ氏は今月9日、ホワイトハウスでのイベントで記者団に対し、「私たちは良好な関係を築いていた。彼の幸運を祈っている」と述べ、自身のマスク氏への態度が軟化していることを示した。マスク氏もXで「トランプ大統領についての投稿を後悔している」と投稿した。

 そのトランプ氏にとっては悪いニュースが続いている。

 9、10日に開かれた関税をめぐる米中閣僚級協議にトランプ氏はベッセント財務長官やラトニック商務長官という重鎮を送り込んだ。協議は通商交渉の枠組みが崩壊するといった最悪のシナリオは避けられたものの、トランプ氏にとって思うような着地に達しなかったようだ。

 会議の焦点は、中国のレアアースの輸出規制や、アメリカの半導体関連などの輸出規制だった。これに対し、ラトニック長官は「レアアースなどの問題が、会議の枠組みを実行に移すことで解決されることを強く期待している」と述べるにとどめ、満額回答ではないことをうかがわせた。

増す一方の社会不安

 一方で続くロサンゼルスの混乱は、全米を不安に陥れている。筆者が住むニューヨーク市の警官らは「デモがニューヨークに飛び火して、自分たちも配備されなければいいが」と戦々恐々としている。市内では、不法滞在という理由で高校生が当局に身柄を拘束され、移民の父母らは不法滞在ではなくても、子どもを登校させるのに慎重になっている状況だ。社会不安は確実に増している。

 トランプ氏が大統領に就任してからまだ約5カ月しか経っていないが、トランプ関税は米国内だけでなく、各国の経済を揺さぶった。ロサンゼルスの警察と市民の衝突には、州兵や海兵隊が派遣され、「内戦」の様相さえ帯びている。

 米国、そして世界の混迷は深まるばかりだ。

(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

SNS上でのトランプ氏と退任したマスク氏の応酬は泥沼化し、親密だった「関係」は、決裂へと向かうと思われた。それが急転することに……(写真:ZUMA Press/アフロ)
SNS上でのトランプ氏と退任したマスク氏の応酬は泥沼化し、親密だった「関係」は、決裂へと向かうと思われた。それが急転することに……(写真:ZUMA Press/アフロ)

AERA 2025年6月23日号より抜粋

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