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 1980年代のある夏。11歳のフキ(鈴木唯)は入院中の父(リリー・フランキー)の病室で過ごすことが多くなった。母(石田ひかり)は仕事に忙しい。あるときフキは知らぬ人が伝言を残す「伝言ダイヤル」にメッセージを残すのだが──。第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作「ルノワール」。脚本も務めた早川千絵監督に本作の見どころを聞いた。

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 本作の初稿を書いたのは高齢者に生死の選択を迫る世界を描いた前作「PLAN 75」の撮影前でした。ずっと子どもを主人公にした映画を撮りたいと思っていたこと、「PLAN 75」のように明確なテーマを掲げるのではなく「こういうシーンが撮りたい!」という断片的なイメージを映画にしたいとの思いからスタートしました。

 私の父ががんを患っていた経験も反映されています。父が他界したのは私が19歳の時ですが、父が入院している病院に自転車で洗濯物を届けた記憶や病院の独特な匂いなどが強烈に残っています。

 主人公のフキはテレパシーや催眠術に夢中になり、自由気ままに子どもらしい時間を過ごしています。が、いっぽうでさまざまな危険も身近にある。子どもは危険が身近に迫っていても理解が追いつきません。でも「何か」の気配は察している。そんな感覚を映画として描けないかな、と思いました。

早川千絵(監督・脚本)はやかわ・ちえ/1976年、東京都出身。ニューヨークの美大を卒業後、帰国。「PLAN 75」で第75回カンヌ国際映画祭カメラドール特別賞を受賞。20日から全国順次公開(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 本作では1980年代に流行した「伝言ダイヤル」が重要なモチーフになります。実際にあったものとは少し設定を変えていますが、見知らぬ者同士が伝言を録音して連絡を取り合うツールで、私も実際フキのように聞いていたんです。知らない人同士がそこに言葉を残し、話をしている感覚がおもしろかったのかもしれません。あの時代はいまよりも無防備で無邪気な時代でした。でも誰かと繋がりたいという孤独な魂の拠り所になっていた意味では今のSNSと同じだなあとあらためて感じます。

 本作を作りながら自分がどんな物語を語りたかったのかが徐々に掴めた気がしています。それが何かは観客のみなさんに委ねたいと思います。ただフランスをはじめ多国籍のスタッフと作業しながら「この感覚、わかる!」と共感をもらったことが嬉しかったです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2025年6月23日号

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