
いつも何気なく見ている日常の風景。少し注意深く見ると、身の回りにあるのに実はよく知らないものが意外と多いことに気づく。そこで今回は、そんな小さな謎を解き明かしてくれる、ネルノダイスキ氏の著書『大人も知らないみのまわりの謎大全』(ダイヤモンド社)を紹介したい。知っているようで知らない雑学の数々に、大人も子どもも思わず「なるほど!」と楽しめる一冊だ。
たとえば街を歩いていると目にする、高層ビルの屋上にあるクレーン。何も意識していなければ「ビルの工事をしているんだな」で終わってしまうが、見方を変えると、あんな巨大な機械を一体どうやって屋上まで運んでいるのだろうかと疑問がわいてくる。
実は、高層ビルなどの建設に使われる「タワークレーン」は、地上から屋上に運ばれるのではなく、建物が高くなるのに合わせて自ら屋上へとよじ登っていく。この登り方には主に、「フロアクライミング」と「マストクライミング」の2つの方法がある。
そもそも「タワークレーン」はベース(土台)とベースから上に伸びるマスト(支柱)があり、マスト部分にクレーン本体が設置されている。「フロアクライミング」の場合は、まずタワークレーンの周りにビルを建設していく。作業時点での最上階でタワークレーンの"クレーン本体"部分を固定したら、ベースごとマストを引き上げて、目的のフロアでベースを固定。クレーンをマスト最上部に引き上げれば、その時点の最上階より上部にクレーンが設置できるという仕組みだ。
一方「マストクライミング」は、「フロアクライミング」に比べるとシンプルで、建物の横にベースとマストを設置し、クレーンでマストを上に継ぎ足しながら作業していく。「フロアクライミング」の場合、マストの高さは変わらないが、「マストクライミング」はマストの高さがどんどんと高くなっていくことになる。
ビルの建設が終わった際も、「マストクライミング」は建設時と逆の手順でマストを外しながら降りていくだけ。一方「フロアクライミング」の解体作業は手順が多い。まずはもとの大きなクレーンを使って、中くらいのクレーンを屋上に運び、中くらいのクレーンで解体した大きなクレーンを降ろす。次に中くらいのクレーンで小さなクレーンを屋上に運び、小さなクレーンで解体した中くらいのクレーンを降ろす......。これを繰り返し、解体して人の手で持ち帰れるサイズのクレーンになれば、撤去作業が終了となる。
ちなみにクレーンの運転席までは、マストの中にあるはしごを運転手が自力で登っていくというから驚きだ。
こうして建設されたビルの入り口には、「定礎」(ていそ)と書かれた石板をよく見かけるが、これは単なる飾りではない。正式には「定礎石」という名称で、建物が完成した日付が記されている。そしてなんと石板の奥には、タイムカプセルが入っているのだ。
このタイムカプセルの正式名称は、「定礎箱」。中には建築図面や会社のパンフレット、当日の新聞に工事関係者の名前や建物建設の意義などが刻まれた定礎銘板などが入っており、これらは建物建設時の情報を後世に伝える役割を果たしている。
もともと定礎石の文化は、日本で始まったのではなく、ビルを作る技術と共に西洋から伝わった。その歴史は古く、7000年前のメソポタミア南部から定礎埋蔵物が発見されている。このことから、建物の基礎を重んじる文化が古代文明から続いていることがわかる。しかし日本でも定礎に近い「棟札」(むなふだ)という文化は存在しており、建物の名称や所有者名などを板に墨で記載し柱に打ちつけてあった。
また街中といえば、鳩もよく見かける。頭を前後に振り、まるでリズムをとっているような動きはなんとも奇妙だが、実は頭を振っているのではなく、逆に静止させているという。
鳩の歩き方は独特で、歩き始めに首を前方に伸ばして頭の位置をキープする。その間に体だけ前進させて首を縮め、次の一歩を踏み出す。そして足が着地したらまた首を前に伸ばすという動きを繰り返すことで、まるで頭を振っているように見えるのだ。
そもそも鳩がこのような独特な歩き方をするのには、鳩の目の位置が関係している。鳩の目は顔の側面についており、普通に前進すると景色が後ろに流れて外敵に気づきづらいという問題が生じてしまう。これを解決するために頭を固定して歩くことで、同じ景色をなるべく長い時間見続け、周囲のものを正確に認識しているのだ。
いつもの見慣れた風景の裏側に、驚きの仕組みや歴史が隠れていることがわかる。一つひとつの現象にはそれぞれ理由があり、それらを知ることで世界の見え方が変わるかもしれない。同書を手に身近なものに目を向けて、新たな発見を楽しんでみてはいかがだろうか。