たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 さて、今回のコメの高騰だが、長年金融市場で価格変動を見続けてきた経験から言うと、結局のところ、価格は需要と供給のバランスで決まっている。価格が急騰するときは、必ずしも供給が圧倒的に不足しているわけではなく、ほんの少しの需給のずれが大きく影響する。「この先、供給が減りそうだ」といった思惑が広がるだけで、供給側が売り渋るようになり、見かけの上での供給不足に陥ることもある。

 逆に「供給過剰だ」と認識されると、買い手が様子見を始めて価格が急落するケースも珍しくない。

 主食である米の場合、食糧危機を避けるためにも、常に需要を上回る供給を確保する必要がある。完全に市場任せにすると、農家は常に不利な立場に追い込まれかねないため、農家を支えるための補助金制度を手厚くすることは必要だろう。

 吉田社長が指摘したように、5次問屋まで存在する複雑な流通経路にメスを入れることも必要だ。今回の米騒動で大手の米穀卸業者の株価が上がったのを見ると、流通が停滞して困る人が増えるほど卸業者が儲かる仕組みになっているのかと心配になる。もしそうなら、流通業者が正常化に向けて積極的に動くインセンティブが働かなくなってしまう。

 また、コロナ禍でのマスク不足のように、生活に欠かせない品物の転売行為には、一定の罰則も与えるべきだ。価格が上がること自体は市場原理として仕方ないとしても、その利益が農家に適正に届かなければ、農家が生産を増やすモチベーションを保てない。

 今回の米騒動が流通経路の問題にすぎなかったとしても、長期的に見ると農業人口が減少する中で、頑張る農家がきちんと報われる仕組みを整えることこそが、本当の意味での問題解決につながると思う。

AERA 2025年6月16日号

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