息子の命日に教会のミサに出席するバイデン前大統領。前を歩くのは妻のジル・バイデン氏(写真 ロイター/アフロ)

 タッパーらは、約200人の民主党内部関係者、閣僚、献金者ら、ハリウッド関係者にインタビューし、バイデンの認知機能低下や記憶障害を示す具体的なエピソードを多く紹介しているが、中でも世界的俳優であるジョージ・クルーニーが頻繁に登場する。昨年6月15日に行われた選挙資金調達イベントで、クルーニーにとって決定的なことが起きた。

 クルーニーがバイデンに挨拶をしても、バイデンはクルーニーが誰であるか認識できなかったのだ。そのときクルーニーは心底震え上がった、と本書に書かれているが、クルーニーはそれが嚆矢となって、昨年7月10日付のニューヨーク・タイムズ紙で発表した“I Love Joe Biden. But We Need a New Nominee.” (ジョー・バイデンは大好きだ。でも、新しい候補者が必要である)というゲストエッセイの中で “He wasn't even the Joe Biden of 2020. He was the same man we all witnessed at the debate.''(彼は2020年のジョー・バイデンですらなかった。彼は、私たちが討論会で目撃したのと同じ男だった。)と書いている。

 本書に書かれている通りバイデンの認知機能が低下していたとするならば、なぜホワイトハウス側近は公表しなかったのか。

「バイデン側近には敬虔な信奉者がいて、彼らはバイデンに批判的なことを言わない。そういう人はバイデンに忠誠を誓うことで、生活が成り立っていることもある。世界で最も過酷な仕事であると言われる大統領職をこなす能力がないとわかっていても何も言わないのです。彼らは忠誠の暗い面を象徴しています」とタッパーは説明する。さらに、「バイデン家には“Don’t call fat people fat.”(デブをデブと呼ぶな)という家訓がありますが、これは“醜い真実を認めるな”という意味です」と付け加える。

 その中でも重要な人物がバイデンの妻であるジル・バイデンである。ジルは教育リーダーシップの分野で博士号を有しているが、自分のことを“Dr. Jill Biden”か“Dr. B”と呼ぶようにホワイトハウスの側近に命令している。

「ジルはこれまでのファーストレディの中で最もパワフルなファーストレディであると側近に思われています。ジルこそが、バイデンの認知機能低下を知っていたにもかかわらず、大統領選に夫を推した張本人です。ファーストレディの職を辞めたくなかったからです」(タッパー)

 タッパーらによると、バイデンの認知機能の衰えは長男のボーの死から始まったという。ボーはデラウェア州の元司法長官であり、イラク戦争に従軍した退役軍人でもあったが、2015年5月30日に46歳で脳腫瘍が原因で亡くなった。

次のページ バイデン氏を5時間インタビューした特別検察官の判断