「オバマが2016年の大統領選でバイデンを支持せず、ヒラリーを支持したのは、バイデンがボーの死後著しく認知機能が衰えていくのを目の当たりにしたからです」(タッパー)。ホワイトハウスの上級補佐官も「ボーの死がバイデンを破滅させた」と本書で語っている。

 日本でも報道されたが、バイデンが機密文書を持ち帰ったことが犯罪に当たるかどうかを調査するために任命されたロバート・ハー特別検察官はバイデンに5時間インタビューした。ハーは、「陪審員は、思いやりがあり、善意があり、記憶力の乏しい高齢者を有罪にすることはできないので、刑事告発はすべきではない」と結論付けたが、これについて本書ではこう記されている。

〈バイデンの側近たちはハーの判断を“pejorative judgement”(侮蔑的判断)であると非難した。ホワイトハウスの戦略は、ハー氏を「専門家ではない右翼のハッカー」として中傷することであった〉

 バイデンが認知テストを受けていなかったことはよく知られているが、それについてタッパーはこう語る。「表向きの理由は、バイデンは日々こなしている仕事で認知テストをパスしているのと同じである、ということだが、本当は、彼らは認知テストの結果を知りたくなかったからです」

 今年の1月にバイデンがインタビューを受けたとき、今でも大統領選に自分なら勝てただろうと話していた。タッパーは「2028年の大統領選が来る前に、民主党はバイデンとその側近が国民に最も重要な真実について、ついてはいけない嘘をついていたという事実を再認識しなければならないが、まだやっていない。我々の心の中で、選挙全体で最も重要な瞬間は、ジョー・バイデンが再選を目指すことを決めたことだった。だからこの本を執筆したのです」と執筆理由を語る。

 バイデン陣営は、「トランプは大統領に適していない」と声を大にして主張しつづけることで、バイデンの認知機能や身体的な衰えを隠蔽し続けたことになる。この本が出版されたあと、バイデン陣営や孫のナオミ・バイデンは「営利目的の誇張である」と強く反発しているが、昨年6月27日の討論会でバイデンの認知機能低下が国民の前に晒された時点で、ドナルド・トランプの勝利が決まっていたと言っても過言ではないだろう。カマラ・ハリスでは勝ち目がないことは民主党内を始めとして、誰の目にも明らかだったからだ。

 もしホワイトハウス側近が、早期にバイデンを大統領選から撤退させていれば、予備選によって強力な対抗馬が現れ、ドナルド・トランプに勝利していた可能性があっただろう。その視点からみるとバイデンの認知機能低下を隠蔽し続けた、ジル・バイデンを筆頭とするホワイトハウス側近の罪はすこぶる重い。(文中敬称略)

(ジャーナリスト 大野和基)

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