マンションの売却価格は、周辺相場の半額以下の約1000万円。リースバック契約に基づく家賃は月9万円だったので、売却で得られた資金は10年で枯渇する計算となる。
なぜ、こんなことになったのか。女性は、うつむき加減で話す。
伴侶も子どももなく、一人で暮らしてきた。甥を頼ることはなく、マンションの住人との交流も少ない。営業マンの説明を聞いても、このマンションにも同様の契約をしている人がいるのだろうと、特に疑問には思わなかったという。
「人を悪くは思いたくないのですが、でも、なんでこんなことになっちゃったんだろうという気持ちです……。人生ってわからないものですね。ちょうど身内に不幸があり、少し寂しくなったところだったんです」
女性は今後、、弁護士に依頼して取戻しの交渉をしたうえで、業者が応じなければ、契約の無効を訴えて訴訟を起こす予定だ。
女性と契約を結んだ都内の不動産会社は、AERA編集部の取材に対して、
「そちらの方のお話は控えさせていただいて、取材もお断りしています」
とだけ話し、具体的な回答は拒んだ。
地価が上昇、転売も見込める地域で
自宅を不当な安値で買い叩く「押し買い」、そしてリースバックの契約をめぐる被害は拡大している。
不動産の売却をめぐって国民生活センターに寄せられた相談件数は、2022年は679件だったが、23年は773件、さらに昨年は862件に増えている。このうちの約3割が、東京都内での相談だった。
そして、東京都消費生活相談センターによると、自宅を安く買い叩かれた「押し買い」の相談とともに、リースバック契約に関する件数も増加。2019年は「押し買い」の相談186件のうち31件がリースバック契約だったが、昨年は254件のうち57件を占めた。
そして、都内でリースバック契約をめぐる相談が多いのは、港区、品川区、世田谷区、目黒区の築30~40年のマンション。いずれも地価が上がっており、築年数が古い物件でも転売が見込める地域だ。