
初土俵から所要13場所で横綱に昇進した大の里。「学生相撲出身力士は横綱になれない」。そんな呪縛も、解き放った。AERA 2025年6月9日号より。
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大関大の里(24)=本名中村泰輝、石川県出身、二所ノ関部屋=が75代横綱に昇進した。大の里は日体大出身。大学を卒業して入門した力士が横綱になるのは、同じ石川県生まれの54代横綱輪島以来、52年ぶり2人目のことだ。
大卒力士への風当たり
輪島が横綱昇進を決めた1973年夏場所、大学相撲出身の力士は、当時の幕内37人中、輪島以外に豊山(のち小結。東京農業大出身)1人しかいなかった。ほとんどの力士は、本格的な相撲経験はないまま、中学卒業と同時に入門する、いわゆる「中卒たたき上げ」だった。
今は全く違う。大学相撲を経て入門する力士は、特に平成以降急速に増えた。大の里が横綱昇進を決めた今年夏場所は、幕内42人中16人が大卒だ。
それなのに、大卒の横綱は半世紀以上も現れなかった。学生相撲で圧倒的な力を示して鳴り物入りで入門し、「横綱間違いなし」といわれた朝潮(近大出)や琴光喜(日大出)でも大関止まり。そんなことから、「学生相撲出身は横綱になれない」という見方がささやかれ、定説となった。
大学に進めば、18歳から22歳までの4年間、プロより力が下の大学生を相手にする。そのため、力が伸びる機会が失われているのではないかと言われた。近大を卒業せず、2年で中退した旭富士(現伊勢ケ浜親方)が横綱となったことも、そんな考えを後押しした。
大相撲の側にも、大卒力士の大成を阻む要素はあった。大学相撲で実績を上げた力士は、番付の一番下からではなく、半分以上上の「幕下付け出し」からスタートできる特例措置がある。今でこそかなり薄らいだが、「中卒たたき上げ」が主流だった大相撲界では、そんな大卒力士への風当たりは強かった。こうした風潮が、出世の妨げとなった面も否定できない。