AERA 2025年6月9日号より
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 物価高や為替、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年6月9日号より。

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「うちも人手不足が深刻でして……」。先月、まったく異なる業界の2人から同じセリフを聞いた。

 1人目は、ホテル業界の人。「人手不足が日本経済の深刻なボトルネックになる」という話を講演でしたところ、終了後に会場となっていたホテルの総支配人に声をかけられた。丁寧な接客で知られる老舗のそのホテルでも、裏方のスタッフのほとんどは外国人労働者でまかなわれているという。地方のホテルでは、そもそも人材が集まらず、需要があっても稼働率を上げられないところもあるそうだ。

 飲食業界や宿泊業界に限らず、どの業界でも人手不足は深刻化し、日本社会は完全に「仕事が不足する社会」から「人が不足する社会」へとシフトしてしまった。

 そして人を集めるためには、当然ながら待遇の改善が不可欠となる。リクルートグループが発表した4月のアルバイト・パート募集時の平均時給は、三大都市圏(首都圏、関西、東海)で前年同月より3.0%上昇している。アルバイトに限らず、社員の給与も上がっている。厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、2024年度の名目賃金は全国平均で3.0%上昇した。

 だが、単純に喜べる話でもない。物価の高騰である。消費者物価指数は前年度比3.5%も上昇し、結果として物価高を加味した実質賃金は0.5%下がった。

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