農協側は進次郎氏のバックに元農水事務次官、奥原正明氏がいるとみる。奥原氏は農協関係者で知らぬものはいない「農協の天敵」だ。農協から金融を分離し、農業に専念させたい考えだった。全農改革でも進次郎氏を支援した。

 秋田県の農家だった父親が農協にいじめられたのを目の当たりにして育った菅義偉官房長官(当時)の信頼を得て、農協グループの頂点で農協法上の特別認可法人だったJA全中(全国農業協同組合中央会)を一般社団法人(19年9月から)にしてしまった。「ここまでやるのか」と当時の農協幹部がつぶやいたのを筆者は聞いた。全国組織を生贄(いけにえ)にして、票を持つ現場の農協には手を出さなかったのが奥原氏の知恵だった。今回、進次郎氏に助言しているか奥原氏に聞いたところ「そういうことにはコメントしない」と述べた。

政府にとっての誤算

 政府にとっての誤算は、備蓄米の放出を表明したのに、コメの価格が下がらなかったことだ。市場が反応しなかった。全農やほかの集荷業者が、既に高い価格でコメを買ってしまっていたため、とみられる。安く売ると損が出るためだ。

 また、これまで3回行われた備蓄米の入札で、健全な競争が機能したのかと思われる面もある。資格者は約60の団体や企業があったが、応札するのは一けたの団体・企業。応札が不調に終わることもあった。これまでの3回の入札で合計約31万トンが落札されたが9割超が全農だった。

 今回、政府が随意契約で価格を決めて備蓄米を販売する方法に切り替えたが、政府内でさや当てもあった。財務省は、随意契約でと農水省に言ってきたのに動かなかった、との報道があった。「農水省側はずっと打診してきたのに、ダメと言ってきたのはあっち(財務省)だ。官邸が動いたら手のひらを返した」と怒りを隠さない。

 「コメ買ったことない」発言で更迭された江藤拓前農水相の問題もあったようだ。江藤氏は農水相2回目。大物農水族議員の故江藤隆美氏の長男で、農水族の中では森山裕自民党幹事長に次ぐ格。会議ではパパッと資料をみて、ガーッと指示を出して、官僚らはだまって従わざるをえなかったという。会議もシーンとすることが多く、活発な議論はできない雰囲気だったらしい。

 石破茂首相とも不仲だった。「おれは(自民党総裁選で)石破なんかに入れたことない」とうそぶいていた。

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