
ウクライナ軍の応急施設で手当てを受けた後、母子は国境を越えてスームィの病院に搬送されたという。
「病院で手術をした医師から脳に近いところに破片が刺さっていたと言われ、命を失わなかったのは非常に幸運でした。私たちを助けてくれたウクライナ人に感謝しています」
行き詰まる停戦交渉
アレクセイは父親が亡くなったことを知っているのですか──?
「息子から“お父さんを埋葬したの?”と聞かれたので、病院にいると言いました。でも私がずっと泣いていたので息子は父親が死んだと感づいているのではないかと思います。スームィに来てから息子とは1回しか会っていません。個人のスマホを持つことができないので、電話を借りて息子と話をしています」
私はイーラの息子アレクセイが入院する病院へと向かった。小児病棟の相部屋に入ると耳から顎にかけて縫合され、右手を失ったアレクセイは、ベッドの上で絵本を積み木代わりにして遊んでいた。医師によると先週までは、精神的なショックと傷の痛みであまり話せなかったそうだ。
「アレクセイは病院に運び込まれた時に頭部に開放創を負い、顎を骨折して意識不明の状態でした。爆発で右手が酷く損傷していたので切断しなければなりませんでした」(女性医師)
イーラ母子は他の避難民たちと共に、取材をした1週間後には全員、ロシアへと無事に送還された。

その後、スームィでは4月13日にロシア軍のミサイル攻撃で子どもを含む35人が死亡、同24日には首都キーウで大規模攻撃があり8人が死亡した。停戦交渉が行き詰まり、終わりの見えない状況の中、戦争終結が実現するまでに両国でどれだけの血が流されるのだろうか。
(戦場カメラマン・横田徹)
※AERA 2025年5月26日号
こちらの記事もおすすめ ウクライナ軍の女性兵士、母も娘も戦場へ 祖国を守るため「最前線に行かない選択肢はない」