次期大統領選は「最もトランプらしい候補」を競う争い
一方、牢屋に絶対に入りたくないトランプ氏は、自分の刑事裁判を妨害するために何でもやるだろう。
一番確実なのは、自分を副大統領候補にしなければ応援しないと言って、事実上強制的に副大統領候補になることだ。
副大統領は、大統領が欠けたときに大統領になる第1順位にあることから、大統領に選ばれる資格のないトランプ氏は副大統領候補にはなれないという説が有力だが、そんなことは無視して立候補し、裁判所が違憲判断を出しても、選挙を強行してしまうかもしれない。そして、選挙に勝ったのに裁判所が最終的に違憲判断を出した場合は、トランプ支持派は黙っていない。大暴動になったり、トランプ派の州知事が州兵を派遣したりという事態もあり得る。
トランプ氏が副大統領候補にならなくても、前述のとおり、トランプ氏の支持を得て当選した大統領は、トランプ氏の意向に沿った政治を行うことになるのは確実だ。
要するに、ポスト・トランプの共和党候補の争いは、「誰が最もトランプらしいか」を競う「トランプ・コンテスト」になるということだ。
このように考えると、今回のトランプ氏の3選否定発言で、将来の見通しが非常に明るくなったとは、到底言えない。
そうだとすると、日本政府が今進めている米国との良好な関係を維持することを最優先する外交の基本戦略は見直す必要がある。
現在の最大の外交上の懸案である米国との関税交渉についても、米国のご機嫌を損ねないことを最優先にする外務省主導で進んでいるが、これは、大きな過ちとなる可能性が高い。
先日、官邸近くにいる官僚に聞いた話だが、霞が関では、対米交渉に本気で取り組んでいる官僚は極めて少ないそうだ。石破茂首相が夏の参議院選挙後に退陣する可能性が高いと見て、とりあえず様子見を決め込んでいるという。
私が経済産業省の前身の通商産業省で日米構造協議などの通商交渉に携わったとき、霞が関の官僚は真剣だった。米国に徹底抗戦するための理論武装を試みたり、日本の傷を小さくしながら米国を満足させる道を探したり、あるいは、米国の圧力を利用して日本の構造改革を進めようとしたりするなど、方向は違っても、皆必死に取り組んでいた。
だが、今の霞が関に「必死さ」はない。
従来の延長線上で、外務省、財務省、経済産業省などの官僚が主導し、何となく米国追随の政策を継続することになるのだ。