ザ・ビートルズの「新曲」として一昨年11月に発表され、話題となった「ナウ・アンド・ゼン」(写真:Photoshot/アフロ)

 杞憂だったAIの使われ方についても、危惧する気持ちは残る。門賀さんがビートルズと同じくらい好きだという日本のロックバンド、BUCK-TICK。一昨年10月にボーカルの櫻井敦司さんが急死、12月には残りのメンバー4人でライブを行ったが、そのときにファンの間で「ある案」が出ていたという。

「まさに私が『ナウ・アンド・ゼン』で心配していたのと同様、櫻井さんのボーカルをAIで再現してライブをやってはという声が、一部のファンから出ていたんです。私は『とんでもない』と思いました」

 ボーカルとは、単なる「音の要素」ではないと門賀さんは考える。歌い手のそのときの体調や心理状態など、歌声の背景にはそれを歌っているときの「その人」がいる。

「でもAIで合成されたボーカルには、『歌っている人間の背景』が一切ないですよね。単なる音の要素として鳴らされているだけ。ジョンでも櫻井さんでも、それをやられたら私は怒ったと思います」

 結局、櫻井さんの声をAIが再現することはなかった。しかし、門賀さんはファンからそんな案が出たこと自体がとてもショックだったという。

「BUCK-TICKの中から櫻井敦司さんの影が消えさえしなければ、AIを使ってもいいという人が、熱心なファンの中にすらいる。この流れはもう止まらないんじゃないかと感じました。私が危惧したAIの使われ方は、じゅうぶん起こり得ると思います」

 音楽におけるAIの使われ方に、同じく懸念を抱いているのは英国出身のブロードキャスター、ピーター・バラカンさん(73)。「ナウ・アンド・ゼン」については、「嫌いではないけど、とくにすごい曲だとも思わなかった」と話す。

「正直なところ、ビートルズじゃなければそんなに騒がれなかった曲だと思うんです。一方で、カセットテープで録音された音源の中の楽器や声を分離し、ステレオでクリアに聴けるようにしたAI技術の進歩は、それはそれで評価できると思います」

 ただバラカンさんは、さまざまな形があり得るであろうAIの使い方にはきわめて注意が必要だとも話す。

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